貴方と恋愛する夢を見る

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貴方と恋愛する夢を見る

ただいま、おかえり。 当たり前の挨拶は笑顔で出来るのに、身体の触れ合いは躊躇してしまう。 今は夜。 夫が豹変する時間帯だ。 誘わなくても、ほんの少し指先が触れてしまえば、通り過ぎざま肩が掠めるほど近付けば、夫は瞬時に身体を固くして身構える。 隠していても、取り繕っていても、長い付き合いが針の先ほどの違和感を察知する。 そんな夫に悲しくも憤りたくも、全部胸の奥に押し込めて気付かないフリをしていた。 結婚ってなんだろう。 夫婦ってなんだろう。 小さい頃や結婚するまでに思い描いていた形じゃない。こんな関係は考えてなかったし望んでもいなかった。 「ねぇ、私のこと愛してる?」 「勿論。愛しているよ」 本当に? 言いたい言葉は口にしない。 「ねぇ、私と結婚して幸せ?」 「凄い幸せだよ。毎日楽しいし」 嘘つき。 なら、なんで拒否するのよ。 これもグッと堪えて噛み殺す。 昼間、田村君に言われた事を思い出していた。 『旦那さんの言葉は嘘じゃないよ。きっと本当に野崎さんの事を愛している。例えばの話しだけど、野崎さんは血の繋がった異性の家族に抱いて欲しいと思ったことある? ないよね。でもだからと言って、情が薄れるとか嫌になるとかないでしょう? つまり、今旦那さんが野崎さんに感じているのはそういうものなんだよ』 『私を家族として好きってことで、女としては好きじゃなくなったってことだよね』 よくある妻だけに勃たないってやつだろう。 夫と同じ性別の田村君が言えば、ネットよりも真実味が増してより胸に突き刺さる。 『うーーん、その辺は上手く言えないんだけど、そうじゃないんだよ。家族だけど家族じゃない。夫婦は他人だと理解してもいる。僕の場合で言えば、当時付き合っていた彼女をちゃんと女だと分かっていたし、愛していた。実の家族に愛してるという恋情は抱かないだろう?』 『でも抱かなかった、違う、抱けなくなったんだよね?』 『そうだね。傍にいるのが当たり前になると、それに慣れるというか、欲じゃなくて……もっと深い繋がりを心に持って……発散する機会がね、気分がね、結びつかなくなる』 『愛してる人が望んでも出来ないものなの?』 『頑張れば、出来ないこともない、かな』 頑張る……? 言い淀む田村君は、怒らないで欲しいんだけど、と 前置きしてから先を続けた。 『最初に言うけど、これは裏切りとか酷いとかじゃないんだ。男の性の問題で相手に非があるわけじゃない。抱くことは可能だと思う。目を閉じて妄想力を働かせればね。簡単に言えば想像の中で違う誰かを抱くんだ。僕はそうして彼女を抱いていたけれど……無理は続かなかったんだ』 無理。 違う誰かを想像して抱く。 衝撃のワード過ぎて真っ白になった。 何も考えれなくなった私に、旦那さんを責めるとか行為を求めるのは逆効果だとか、ネットでも要注意事項に上げられている助言をされる。 今夜も夢を見るしかないのだろう。 貴方に抱かれる夢を。 遠い過去の記憶となった甘酸っぱい貴方との夢を。
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