交われない私達

貴方を裏切る夢を見る

夫が寝たのを確認した後で、布団を被ってスマホ検索に取り掛かる。
夫側が妻に拒否られるのは、自分も女だからどういう気持ちがそうさせるのか分かるつもりだ。　　

夫が不貞していて嫌になった。
夫の言動や態度が不快で嫌になった。
自分に好きな人が出来てしまった。
女性ホルモンの関係で出来なくなった。　　

原因となるものが多かれ少なかれ存在する。

でも妻側が拒否られる場合は、上記の原因以外にも明確に表せないことがあるのだ。
それが私達夫婦の問題だった。

夫も私も不貞などしていない。
喧嘩はするし傷付くこともあるけれど、不快という強い感情は互いに持っていない。
他に好きな人がいるわけでもない。
夫はどうか知らないけれど、ホルモン云々も関係ないと思う。
不能説も怪しい。
夫より早く起きる私は、布団を押し上げる朝勃ちを確認している。

やっぱり、田村君説が有力なのか。

同じ立場、同じ悩みを抱える妻側の悲痛な叫びコメントを読みながら、どんどんと落ちていく心が辛い。

辛くなるなら見なければいいのに。
それでも日課のように見てしまうのは、自虐趣味でも共感して泣きたいわけでもなくて、全国に散らばる同士達に勝手に慰めを求めている。

私だけじゃない。
私だけじゃないんだと。

「すっごいクマ出来てますよ」

「でしょうね。昨晩は朝方まで読んでたから」

「わざわざ傷を広げてどうするんですか」

「これって広げることになるの？」

本日も田村君とランチをしている。
昨夜の続きコメントが踊るスマホ画面を見せた。

「広げますよ。誰も彼もが現状を嘆くだけで、こうやって解決しました、こうすればいいんです、という答えを書いてないんだから」

「なるほど」

「仮に書いてあったとしても、それが自分達に当てはまるのか、本当にそれで解決出来るのかなんて、やってみなければ分からない事だし」

「言えてる」

「僕も野崎さんと一緒です。彼女…元カノだけど、に泣かれて責められて寝不足になるほど見てましたから」

「役に立った？」

「立つわけないでしょう。抱けない彼女なんか捨てちまえ、もしくは浮気しろ、放置一択、僕の悩みに寄せられた返信コメントです。腹が立ってスマホをぶち壊しましたよ。余計な金がかかるし精神にも悪い影響しかなかったですね」

「……夫も、田村君みたいに悩んでいるのかな」

「当然でしょ。旦那さんが僕と同じように相手を愛していれば尚更です」

「答えたくないなら答えなくてもいいけど、どうして田村君は彼女と……その、別れたの」

「……勃たない僕は不甲斐ないことに、彼女を寝取られたんです。相談していた僕の親友にね」

吐き捨てるような言い方だった。
ネットの返信コメントどころじゃない。
彼女に裏切られ親友にも裏切られ、田村君はどれほど傷付いたことだろう。

「逆に質問しますけど、野崎さんも浮気したいと思ったことありますか」

ない。
とは言い切れなかった。
実際にはしなかったけど、レス歴が三年ほど経った時、悩み過ぎて女としての価値を見出したくて、誰でもいいから抱いて欲しいと思ったことがある。

私の無言に田村君は嫌悪を隠さなかった。