83人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
貴方に抱かれる夢を見る
いつもいつも考えている。
いつもいつも望んでいる。
今日は、今日には、今日こそは、と。
「疲れているんだ」
そして、今日も夢想は夢想のまま砕け散る。
ぶっきらぼうなひと言と共に。
さも邪険そうに背中を向ける夫は、妻の精一杯の懇願を意に介さずにいる。
確か前回は「腰が痛い」だった。
ネットの検索通りの断り文句。
夫婦間の夜の営みに対する悩みは、同じ文言で一括りに出来るほどありふれたものなのだろう。
最初は惨めだった。
求められない現実に。
もう女として必要とされていないのか、夫にとって妻はただの家事要員になってしまったのか、妻になれば途端に色褪せ魅力がなくなるものなのか、と。
身だしなみに気をつけていた。
疲れていても疲れた顔を見せたりしなかった。
肌は極力見せないようにしたし、体型も維持していたし、こちらから過度に性的アピールをするような真似はしなかった。
ただ、待っていたのだ。
夫からのアクションを。
ひたすら焦りや必死さを押し隠し、同じ状況に悩む他の人達の失敗談を読み込んでは、同じ轍は踏まないよう心がけて。
だけど、そうした妻の努力もただ無駄に時が過ぎて行くだけで、いつまで経っても夫が求めてくることはなかった。
妻は思う。
結局は何をやろうが、しないだろうが、変わらない結論に辿り着くのだ、と。
仲は良い。
交われないだけで。
愛している。
交われないけれど。
夜の問題さえなければ夫婦は上手く行っていた。
でも言い換えれば、夜の問題が二人の関係にヒビを入れている。
結婚すれば愛する人との行為の先に子供が得られ、家族となって年老いていくのだと思っていた。
病気でもない。
険悪でもない。
健康な夫婦が、こんな以前の躓きで悩むとは夢にも思わなかった。
愛の言葉はあれど身体を愛されることはない。
愛する気もないことは、待った末に起こした妻の行動を拒否した夫の態度で分かる。
結婚歴十年。
レス歴九年。
子供はまだ居ない。
親とは互いに疎遠で互いに三十半ば。
そろそろ考えなければならない岐路に来ていた。
病院は夫が嫌がった。
なので、選択肢は自然の営みで子を設けるしかないけれど、その自然な行為さえままならない。
妻は夢を見る。
夫に優しく抱かれ愛される夢を。
妻は夢を見る。
まだ見ぬ二人の子供を育てる夢を。
妻は夢を見る。
愛がなくてもいい、子供の事もなくていい、ただただ本能のまま夫に求められ、求め返し、幸せな一夜を過ごしたいという叶わぬ夢を。
最初のコメントを投稿しよう!