永遠の夜

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山頂まであとすこし、きっとこれが最後の夜になる。 「ここから先はひとりで行きます。ずっと一緒にいてくれてありがとう。どうか無事に山をおりてね」 さっきまで苦労してかきわけ登った針葉樹林は唐突に途切れ、真白い雪の平原がつづくその先に、凍えた銀の満月を突き刺すように立つ、孤独な一本杉がみえる。 くうん、と鼻を鳴らしてこたえるぼくは、とっくに心を決めていた。きみが純白にふたつの足跡を刻めば、そのあとを追うよっつの足跡。振りかえり、困ったようにぼくの名をつぶやく声に、知らず尻尾が揺れてしまう。 今夜、長く凍てついた世界への祝福とひきかえに、永遠の夜を得るいけにえのきみ。ぼくはいつものように毛皮で包もう。一緒に丸まって過ごす夜なら、永遠だって悪くはないよ。
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