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「代理、放してください。俺は抗議しにいかなければなりません。なぜならば」 「なぜならば?」  首根っこを掴み、掴まれたままの状態で二人はやり取りをする。端から見れば十分すぎる程に滑稽な様子だが、それを笑う者はここにはいない。二人以外、誰もいない。 「まず第壱に、壱月前には最低でも内示が通知で届くはずです」 「そうだね」 「ですが、今日、この日まで、というか今現在も、俺は俺の部屋にも俺に直接宛てにも届いていません。念のため部屋を出る前に自室の郵便受けを視ましたが何も入っていませんでした。これは郵送課の怠慢です。もういっその事、訴えに郵送課まで「お届けものでーす」 「あだっ」  どこからともなく滑稽な声がし、黒紅の頭へ封を落とす。慌ててそれを受け取った頃にはもう、それを持ってきた人物の姿はいない。 『人事異動通知書』  茶封筒にはそう蚯蚓のはったような文字で書かれていた。 「郵送課のやつか……。あいつら、速すぎて壱度も姿を視た事がないんだよな…。というか、今更送られてきてももう遅いんだよ」  黒紅は茶封筒の中に入っていた書類一式を眺めながら文句を垂れる。そこには先程の黒板へ書かれていた内容と大差のない事が書かれていた。部屋の移動先もきっちりと記されている。 「弐号館……今が壱号館だから隣の館か、それの壱―イか。という事は壱階の角部屋――ま、まあこの不着の件は不問とするか」 「ん? 角部屋は良いとして、普通なら壱階は嫌がる職員が多いけれどなあ。隣室からの物音は絶対にしないとしても、何となく他の職員の気配を感じるからって理由でね。――ははあ、なるほど。そういえば君は植物史だったね」 「元、ですけどね。――まあ、壱階だったら中庭の様子がよく視えるから……ですが!」 「うん」 「降格はおかしいでしょう! 薄青から黒までって……壱弐参…陸も落ちてるじゃないですか! どうして!!」  黒紅が言う薄青という語はここで働く職員の階級を表す。  九つある階級の内、上から数え、紫、濃青・薄青、濃赤・薄赤、濃黄・薄黄、白、黒。  紫は特級。濃青・薄青で壱級。濃赤・薄赤、弐級上。濃黄・薄黄、弐級。白、参級。黒のみ「黒」と呼称されている。図書館での労働実績に応じ、年に弐回の館長による査定の上での昇格、降格が決められる。それに伴い、帯色も変わってくる。
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