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 『お前の目には、世界がそういう風に映るんだな』  小憎たらしい程、邪気のない快活な声は、聞いた者の悪意や嫉妬心までが払われるような気さえ感じられた。いっそのこと、心の底から憎んでしまえれば――と誰かが思っても、この青年の声はそれを阻止する力強さがあった。荒んだ心は、そうして何度も彼の心からの賛辞に癒されるのだろう。 ――そのような声が聞こえた、気がした。  今しがたまで、はっきりと耳元で発せられたかに感じられた声は、ひんやりと冷え切った部屋の温度と共に、どこかへ行ってしまった。その冷気に体温を奪われないよう、青年は、もぞもぞと身を揺すりながら、寝台からずり落ち掛けている毛布を手繰り寄せる。まだ微睡んでいたいのか、眉間に皺を寄せながらも頑なにその瞳を開こうせず、バタバタと彷徨う手が騒がしい。暫くそうしている内に、一向に毛布を掴めない違和感に気づいたのか、「ん……?」と、薄い唇から言葉が零れ落ちた。  寝起き特有の掠れた声が、しんと静まり返った室内に木霊する。  その頃にはもう、青年の脳裏からは、先程の声の事など綺麗に消え去っていた。  ゆっくりと眼を開ける。  黒く丸い月。それを取り囲む、視界一面に広がる青紫の美しい景色が、寝ぼけた頭に響き渡る。それは、月の光に照らされた夜空や海の、上澄みだけを掬い取って閉じ込めたような色だった。無心で眺めていると、その静寂さに飲み込まれそうな錯覚が生じる。 「ん?」  しかし、青年は事の異常さに気づいて声を上げる。  綺麗だなあと呑気に考えていた矢先、その視界の中心の黒が、カッと大きく花開いたように感じられたからだ。 「うっわ!」 「さっさと出てけ」  それが瞳孔だと気づいたと同時に、至近距離から叱責が飛ぶ。 (えっ、何だ、どうして、何が起こっているんだ。というか、誰なんだ)  彼の混乱を他所に、声はその距離を保ったまま続ける。高くもなく、それでいて低くもないただ単調な調子が響く。 「植物史ハ行科第弐班の黒紅(くろべに)だな。階級は、壱級『薄青』」 「ちょちょちょ」
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