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 『図書館』――黒紅たちが勤務するその場所は、時間や空間、次元などのあらゆる概念から隔絶された場所に在る……というのは、司書達が言っていた事だ。並行世界というものも存在するらしいが、ここはその数多ある並行世界の図書館の一つらしい。そして、図書館の『書物庫』では人間達が築き、関り、または想像し、携わってきた、過去現在未来における全ての記憶が『本』の形で収蔵されている。  黒紅はそれら書物を管理する数多の内の一人である。  黒紅は「植物史ハ行科第弐班」の黒紅だ。ここでは自身の持つ瞳の色で自分たちを認識、呼称する。「植物史ハ行科第弐班」と仰々しい冠がついたのは、他の史にも黒紅がいるからであり、紛らわしいため、初対面の職員同士では所属する史と(あれば)科、班を名乗り、それから自身の瞳の色を最後に付け加えるのだ。人間達がいうところの名前というものはなく、特段不便に感じた事もない。  瑠璃は瑠璃だ、とあの性悪職員は言っていたが、黒紅も黒紅なのだ。「植物史ハ行科第弐班」の黒紅。それだけの存在。  ただ、今日からはそう名乗れないのだが。 「えーっと、確か司書さんは黒板を視ろとか言ってたよな……」 「黒紅」  ふいに自身の仮名(なまえ)を呼ぶ声がした。 「今朝は災難だったそうだね」 「館長、代理……そうなんです。はぁ。……はぁ、聞いてくださいよ」
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