ある刀鍛冶のおはなし

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まだ日が明け切らぬこの時間 私は一人鉄を打つ。 闇の中かざした白熱する刀身は赤々と燃え、マグマの様に空気を焼いた。 夜通し鍛え続けてきた甲斐あってか、満足のいく仕上がりだ。 最後の引き締めの冷水に漬ける。 ジュワア、と立ち昇る 水蒸気で工房内は白く煙った。 工房の外からは夜明けを告げる鶏の声。 湯気が晴れゆくのに合わせて、格子窓から光が差し込んでくる。 掲げた刀剣はキラキラとした朝日を受ける。 爽やかであるはずの光を受けながらも、それはあくまで禍々しく、そして艷やかに輝いた。 「ミスリル銀とアダマンタイト鋼…決して融合しない組み合わせと言われていたが…」 興奮の為だろう、私の独り言は震えている。 「口伝は本当だった。私の代で、とうとう完成だ!」 叫びが工房に響いた。 頬が濡れているのが分かる。 もう感覚の無い引きつった左側の頬にもそれが分かる。 「口伝はまことだった。隕石から取れる鉄こそが2つを繋ぐ。一族の悲願。私の代でとうとう完成だ…!」
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