ある刀鍛冶のおはなし

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「ふへ。魔王たあ、御大層なこった。いよいよこの国も危ないかもなあ」 物乞いは私など居ないかのように、独白を続ける。 「何でも、書状が来たってよ。そう、隣国からさ。ぶっ潰れちまった、お城の代わりに真っ黒い塔が出来たんだってよ。そっから、脅迫状みたいなのが来たってよ…皆殺しにされたく無けりゃあ、お前の国の財宝、税収、働き手も女どもも、九割がた差し出せ、とさ。そりゃあ、奴隷になれって意味だあなあ。怒った王さん、とうとう重い腰を上げやがった。でもよ」 物乞いは尚も続ける。 「…あんた、知ってるかい?一年前の調査団の話。学者さんやら騎士団やら総出で隣国へ行ったのさ。どうなったかって?全滅さ、一人を除いてな。バケモンだらけだったってえ話だ。剣も弓も、全然効かなかったってよ。なんで知ってるかって?あの日俺が町外れで物乞いしてたらよ、城門の外から、片足の男が折れた剣を松葉杖にして、やって来たのさ。そいつの姿って言やあよ、火傷だらけで生きてるのが不思議なくらいだったぜ。だけど、俺の前でとうとう倒れちまった。俺が城のもん、呼んでやったさ。運ばれてったけど、どうなったかなあ。そいつがうわ言で言ってたんだ。モンスターどもがどうたらってよ…」 私は物乞いの肩を掴んだ。 驚いた顔の奴に 「…そいつは他に何か言っていなかったか?後は」 青ざめて頷く物乞い 「…何か持っていなかったか」 「く、黒い鉄の塊をさ、俺に渡したよ…なんかたまに光って薄気味悪いからさ、そこの跳ね橋の下のお堀に捨てたよ…」 私は物乞いを突き放すと、迷わず堀に飛び込んだ。 騒ぎを聞きつけた群衆が身投げだ、と大騒ぎしている様だ。 水底に鈍い光。 不可思議な力が働いたのか、サビ一つ浮いていない。 一年前、私が命がけで持ち帰った物。 それだけの為に生きながらえた物。 私は「隕石から取れる鉄」を手に入れた。
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