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夜が明けて行く。
残酷なほど強い日差しの中、私は王宮へと赴く。
今日が出兵の日と聞いていた。
この剣が絶対に役に立つ筈だ。
完成した長剣を背に結わえると、私は家を出る。
片足を引きずる。
逸る気持ちとは裏腹に、整備されていないあぜ道のぬかるみが、私の義足を捕らえて離さない。
夢の中で魔物から逃げる時にも似て、心だけ進もうとしても身体が付いていかないのだ。
正午が出兵の時間だ。
遠くでカラスの鳴き声がする。
夕刻の悲しげな鳴き声ではない、嘲笑うような声。
私の様を見て鳴いているのだろうか。
構わない。
もう充分、地べたを這い回ってきたのだ。
今更なんだ。
がらん、がらん、と真鍮のベルが鳴る音が背後で聞こえる。
後ろから一頭の牛を引く男が「ほう、ほーう」と追いすがってきた。
会釈して追い抜いていく牛飼いに恥を隠さず、乗せてくれないか尋ねる。
牛飼いは背に負った私の長剣に気づくと、顔を強ばらせる。
牛飼いは困った表情で引き受けてくれた。
牛は困った顔で乗せてくれた。
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