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第一話 鬼とカレーライスとわたし
二月四日。
昨日は節分だったけれど、うっかり豆まき用の煎り大豆を買い忘れてしまった。
なので、現在わが家には鬼が居る。
来年の節分まで鬼が家に居座るのもどうかと思うけれど、豆を買っておかなかった私に落ち度があったわけだし、まあ仕方ないよね。
「でもねぇ、鬼と暮らすって、どうすればいいのかしらねぇ?」
コタツで新聞を読んでいたおばあちゃんが言った。
うーん、なんとかなるんじゃないの?
「ご飯もなにを作って出せばいいか悩んでしまうわ」
確かに。鬼ってなにを食べて生きてるのかなぁ?
*
「食事? 逆に聞くが、お前さんはなにを食べておるんじゃ」
雑草の生えた庭にあぐらをかいて座っていた鬼は、熱心に布で金棒を磨く手を止めてそう言った。
あれっ、錆止めスプレーを勝手に使ってる。それは自転車用よ!
「え、私が食べてる物? うーん、そうね……」
お肉お魚、野菜も好きだし、和食も洋食も中華も好き。お米にパンに麺にお餅に……
「お前さんは、そげに色んな食い物を作れるのけ」
鬼が感心したように言うので、私はちょっと慌てた。
えーと、まあ、たまーに自分で作ることもあるけど、大体はおばあちゃんが作ってくれるよ。あとは外で食べたり、買ったりね。
あはは、とごまかすように笑うと、鬼はしみじみとした調子で言った。
「お前さんは、お嬢様なんじゃな」
ええ?
「ワシもタダで厄介になるつもりはないけの。お嬢の口に合うかわからぬが、ワシが作る飯を食ってみんしゃい」
おもむろに立ち上がると、のしのしと歩き出す鬼。
どこ行くの? 台所は家の中だよー
「通りの向こうに川があったじゃろ。鴨を捕まえてくるんじゃ」
鴨? カルガモを獲る気なの?
やめてー! 鴨を捕まえて捌くなんて!
というか、そんなことしたら怒られるんじゃないの?
鬼の腰布をつかんで引き止めつつ、スマホ検索をした。やっぱり法律で捕獲が禁止されてるじゃない。
鴨を捕まえたら、私達が捕まっちゃうよ!
「お上はずい分厳しい政をしとるんじゃな」
もう、なに言ってるの。
財布持ってくるから待ってて。一緒にスーパーに行こう。
「『すうぱあ』とは、なんじゃ?」
スーパーマーケットだよ。
意味は……そうね、『すごい市場』かな。
「すごい市場か……面白そうじゃの」
ちゃんと良い子にしてなきゃダメだからね!
私は家の中へ戻ると、鬼と夕飯の買い出しに行ってくることをおばあちゃんに伝えた。
「あら、そう。鬼さんはなにを召し上がるの?」
さあ、わからないけど。
とりあえず今日は私が晩ご飯を作るよ。台所で鴨を調理されたら困るものね。
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