戦火の魔女

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戦火の魔女

死んだ生き物が焼け焦げ、鉄が辺りを埋め尽くし 空へと昇る黒煙が、大地へと塵を振らせ、 皮膚に当たれば肌は焼け落ちるような、この戦火に、只一人の少女は唄っていた 何時間も唄い続ける彼女はふっと歌うのを止め、耳に届く音に気付き脚を動かす ヒラリと舞うスカートに、長いローブを靡かせ、深く被ったフードが外れないよう軽く押さえて走る彼女は、肉体が繋がらない彼等を踏む事なく、器用に避けて進めば、 倒れ、積み重なってる遺体の傍へと掛け乗る 「 ……っ… 」 「 大丈夫ですか? 」 其の下から、這い上がる様に出ようとする 一人の青年へと声を掛けた彼女は、余り反応が無いのが分かれば、彼の背にあるいつくもの遺体へと両手を合わせ、その一番上から横へと滑り落としていく 冷たく硬直した身体は重く、彼女も苦戦しながら退けていけば、残り三人となったところで、男は自らの力で其の場から抜け出した 「 ゴホッ…ゴホッ……。すまない…助かった 」 「 いいえ、お水ありますよ。どうぞ 」 「 ありがと… 」 咳をし座り込んだ青年へと、彼女は腰にぶら下げていた山羊の胃で作った革水筒の蓋を開け、差し出せば 彼が僅かに手を動かし探す動作をした為に、そっと片手に触れ持たせる 「 っ…ん……んっ、はぁー…! 」 革水筒を受け取った彼は口へと含み、一気に喉へと流し込めば、口元を拭き、彼女が居るであろう方向へと顔を向ける その顔半分は火に焼かれた様に、皮膚が溶け肉が剥がれていた 「 ありがと… 」 「 いいえ。貴方、顔が焼かれているわ、手当するからちょっとじっとしてて 」 「 君は…女神か?その声がして、俺は川を渡ることなく…戻って来てしまった 」 革水筒を受け取り、腰へと戻した彼女は、包帯と塗り薬を取り出せば、彼の傷を見て、塗り薬は止め、包帯だけを巻いていく 深い緑色の軍服に、胸元にある五つのバッチ そして、彼を庇うように上に乗っていた者達を見れば、其れなりの立場なのだろうと思う けれど、今はそんな事よりも手当が先だと 彼女は包帯を巻いていく 「 大袈裟ですよ。それとも、死んだ方が良かったですか? 」 「 …多くの仲間が死んだのなら…俺も死ぬべきだろうが…。生きてるってことは、まだ天命が残ってるのだろう 」 「 貴方は…まだ何かをしようとするのですね 」 包帯を巻き終えた彼女はそっと手を離せば、青年は包帯のついた顔に触れ、ゆっくりと立とうとした為に、彼女は下からそっと横腹を支える様に掴む   「 …国に命を買われてるからな、やるさ… 」 「 その国、滅びましたよ。五日前に…貴方の国は、負けたのです 」 「 …そう、なのか…。なら、俺は五日間も呑気に寝ていたんだな 」 「 貴方はもう…自由なんです 」 少女は嘘をついた 彼がこれ以上、戦場に身を投げ出さないように、遙か先で戦争が続いてるにも関わらず、彼がそこに行かないよう、背を向け逆の方へと歩いていく 彼にとって、杖となってる顔も見えない少女だけが頼りの為に、何処に行くのか分かってはいなかった 少女はそっと歩く先へと片手を向け、小さく魔法を呟けば、その中へと入って行く 緑が多く残り、小鳥が歌う、小川の流れる ゙ 魔女の森 ゙へと連れて来たのだった 「 急に匂いも、音も変わったな…ここは何処だ? 」 「 私が暮らしてる森です。兵士さん、私…魔女なんですよ 」 「 魔女…?ふっ、君は…俺の女神だろう 」 「 !! 」 魔女と言えば、殺そうとする者が多い中で ごく普通に受け入れた彼に、彼女は少し驚き、その口元は密かに笑みを浮かべた 血のような赤い髪と瞳、死人のような白い肌をしてる彼女は、この盲目の兵士と暮らすことに決める 「 俺は、アレン…まぁ、苗字はいい。君は? 」 「 ………ん? 」 「 なら…アテナ、君をそう呼ぶよ。俺の女神様 」 名前の無い魔女にアレンと名乗る兵士は ゙ アテナ ゙と名付けた
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