終  章

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終  章

㈠  志波は、腹を押さえた。斬り裂かれた表皮から流れる血が、腹部から太腿に流れる。血は出ているものの、刀は表皮を削っただけだ。  志波は目線を上げた。白翼を背負った月子は、右手に太刀をだらりと提げたまま、下を向いて立っている。 「……どうした。やれたやろ」  月子の肩が小刻みに震える。 「———できない……」  志波は眉間に皺を寄せる。 「なんでや」 「無理よ」と涙声で、吐き捨てる。  苦悶する月子の姿に、頭が冷静になっていく。そして訊ねた。 「俺を殺さんかったら、あんた、どうなんねん」 「命を以て償う。掟書(おきてがき)には、そう書かれている」 「俺のために、あんた、命かけてくれんのか」 「どうせ命をかけるなら、大事な人がいいから」  疲れ切った顔だった。 「あなたの命は、私の命で償う。あなたは生き延びられるけど、狙われていることは忘れないで」  刀を鞘に納め、踵を返そうとした月子を呼び止める。 「待て。俺を殺したって、報告したらええやろ。隙見て外国にでも逃げるわ」 「うまくいくとは思えない。あの人たちは執念深いもの」 「見つかるにしても、時間はかかる。その間に、あんたも海外に逃げろ」 「母上がいる限り、無理なの。私のことはいいから、早く逃げなさい」  立ち去ろうとする月子に志波は大股で歩み寄り、手首を摑む。月子は、志波を振り返った。
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