二  章

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 鷹司家は、江戸時代の(こう)端緒(たんしょ)とする貸金を営んでいる。現在経営を担っている玄蔵は、三代目であった。  玄蔵の書斎は、天井までの高い書棚を備えた茶褐色を基調とした、重厚感のある部屋だった。洋書が整然と並ぶ書棚の前には、漆塗りの執務机と椅子。その椅子に腰を下ろしている玄蔵は、後ろに撫でつけた黒髪に口髭という様相である。玄蔵は新聞を手にし、ある記事を注視していた。  目線の先には「田村正夫殺害事件は、一年半前の陸軍大学校教官殺害事件と同一犯の可能性あり」とある。玄蔵は指で机を叩き、立ち上がった。そして、良枝を呼ぶ。  暫くして良枝がやってきた。  良枝の家系は、代々鷹司家に仕えている。そのため鷹司の方針は熟知していた。 「お呼びですか」  玄蔵は新聞を机上に軽く叩きつけ、記事を指さした。 「書いた記者を調べろ」  良枝はさっと記事を確認し、「(かしこ)まりました」頭を下げた。
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