終  章

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「あんたに借り作ったままじゃ、気持ち悪いわ。俺が何とかするから、命捨てんな」 「何とかなんて、できないでしょ」 「知るか。やらんと分からんやろ」 「彼等を甘く見たらいけないわ。何でもする人達よ」 「そない腐ってんのか」 「そう。お金と地位と権力のためなら、何でもするの。とても醜いのよ。(けが)れるから、関わったらだめよ」  諦観した声が言う。志波は、尚も続けた。 「そう言われてもな。借りは返さんと、気が済まんわ」 「貸し借りとか、あなた達の決まり事なんて、どうだっていいのよ。生きててくれたら、それでいいから」  志波は、月子の翼に視線を移す。翼が風を撫でるように、ひとつ羽ばたく。 「あんた、何者や」 「私は月を住処とする月人(つきびと)。でも運が悪くて、ここに」 「ほんまに、人間やないのがおったんやな……」  白い翼が、もう一度大きく羽ばたく。 「だから、あなた達のルールなんてどうでもいいのよ」 「それでも、や。命で償うなんて、あほなことすんな」 「どうして。あなたには関係ないでしょ」 「俺達、友達なんやろ?」  それに、と志波は続ける。 「出帆にも顔向けできんしな」 「大袈裟な……」 「あいつな、ああ見えて、かなり屈折しててな。そういうあいつが、惚れる女が存在するとは思ってもなかったわ」  月子は何に対してか、ひとつ首を振る。それから手首に視線を落とした。 「放して」 「約束してくれたらな」 「腕を斬るわよ」 「できるなら、とうにやっとるやろ。———月子、約束しろ」  月子は黙して志波を見つめ、それから小さく息を吐いた。
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