終  章

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 志波は踵を返し、長屋へ歩き出す。  とにかく、すぐに日本を出ねばならない。荷物を持って行けば、生きていると思われる。突然消えたように思わせるには、荷物は持たない方がいいだろう。それでも風切には伝えておこう。慎重に。  路地の暗がりに入ると、向かいから影が近づいてくる。志波は目を凝らした。月光に照らし出された顔に、志波は目を見開く。 「……銀鈴(ぎんれい)」  銀鈴は口許を残忍な笑みに歪めた。 「久しぶりだな。一雅」  志波は周囲を警戒する。銀鈴はくつくつと笑う。 「相変わらず、気のちいせぇ男だな。誰もいやしねぇよ」 「俺に、なんの用や」 「いやな、お前が目障りだって奴がいるんだよ。で、そいつが、てめぇを()ったら金くれるっつーからよ。まあ、やってやるかって話だよ」 「西見か」 「分かってんなら、話は早ぇよな」  ということは、月子に依頼したのは鷹司か。銀鈴は志波の怪我に気づいた。 「なんだ、誰かに襲われたのか」 「今日は、よう狙われる日でな」 「誰に狙われたんだ?随分、腕のわりぃ野郎だな」  志波は嘲笑する。 「笑わせんな。お前じゃ月子の相手にはならんわ」  銀鈴の目つきが変わる。 「一雅、死んでくれ」
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