終  章

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 志波は銃を取り出し、背後から斬りかかってきた男の頭部を撃つ。崩れ落ちた男の手から刀を奪い、銀鈴を振り返った。 「汚いのは、昔からやな」  銀鈴は残忍に笑う。 「俺は行儀ってもんを知らねぇからな」  刀を抜いた銀鈴が、斬りかかってくる。志波は受け流し、鋭く斬り返した。切っ先がわずかに銀鈴の右肩を捉える。銀鈴は距離をとった。しかし志波は銀鈴を逃がさず、追う。その時、銃声がした。脇腹に激痛が走って、地面に崩れ落ちる。視線をやると、別な男が銃を構えていた。  銀鈴がげらげらと笑う。 「だから言ってるだろ、一雅。お前はいつも甘いってよ」 「あんたのそういうところに、反吐(へど)が出んねん……っ」 「汚ぇって言うが、俺は生き延びてるだろ。で、てめぇは死ぬ。ってことは、だ。世の中は、汚ぇ奴が生き延びるようにできてるってことだ」  志波は奥歯を噛み締めて、銀鈴を睨む。銀鈴は刀を手に近づいてくる。 「じゃあな、一雅。ああ、忘れてた。西見からお前に、冥途の土産だ」 「なんや……」 「奴隷売買は儲かる商売だ。田村は目障りだったから殺った。で、金を搾り取ってやった。だそうだ」  言下、銀鈴の刀が胸を貫いた。温かいものがせり上がってきて、志波は吐き出した。更に別な場所を貫かれ、一瞬遅れて激痛が体中を駆け巡る。それから何度も背中に衝撃があった。  風切の姿が、脳裏に鮮やかに蘇る。  ———出帆。暴けんで、すまんかった……。  風切は答えなかった。  視界が暗くなる。  風切の姿は、もう見えない。  それを淋しく思って、志波は意識を閉じた。
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