終  章

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㈡  十五時を回り、右京は大蔵省の門を出た。道の向かいに、背広姿の目立つ男が立っている。風切だった。  彼は軽くお辞儀をする。右京は道を渡って、風切に歩み寄った。風切は紳士然とした笑みを浮かべる。 「押しかけて申し訳ありません。少しよろしいですか」 「なにか」 「月子さんのことで、お話が」  右京は無言で先を促す。 「月子さんからお聞きしました。お兄様を刺した容疑をかけられているとか」  その発言に、右京は露骨に不快さを表した。風切は心得ているとばかりに苦笑を浮かべる。 「立ち入るつもりはありません。ただ、月子さんは、非常に苦しんでいます」 「月子が言いましたか」 「いいえ。ですが分かります。月子さんの味方は、もうあなたしかいませんから」 「ええ。あなたと月子は、仲違いをしたそうですから」  風切は一笑する。 「それは解決しました。ですが私は来週出国します。なので、どちらにしろ彼女を見守り続けることはできません」 「アメリカへお戻りになるのですか」 「ええ。ですから、あなたに話をしておきたかった」  右京は黙り込む。 「月子さんを、護って差し上げてください。彼女は何もかも、あなたに捧げたのですから」 「どういう意味です?」 「月子さんは、自分の人生をあなたに捧げたということです。あなたも応えるべきでしょう」 「……話は終わりですか」  ええ、と風切は笑んで、「お時間ありがとうございました」と礼を述べて身を翻した。
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