二  章

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 蒼次郎(そうじろう)は、十五時前に女学院の門前に四輪(よんりん)二頭(にとう)()ての箱馬車(はこばしゃ)で到着した。  十五時を過ぎた頃、舎内(しゃない)から女子生徒が、ぱらぱらと現れ始める。人流の中に月子を見つけた。珍しく女子生徒と一緒である。あれはたしか、下村(しもむら)咲子(さきこ)だ。父は陸軍(りくぐん)少将(しょうしょう)を務めている。  咲子は、溌剌(はつらつ)とした少女だ。その咲子と肩を並べていると、月子はいかにも(しず)かだ。  興奮気味に話す咲子の話に頷きながら、月子がやってくる。蒼次郎は馬車のドアを開けた。  咲子は蒼次郎に「ごきげんよう」と挨拶する。蒼次郎は、一礼を返した。 「では、月子さん、ごきげんよう」 「ごきげんよう」  咲子は、跳ねるように駆けていく。蒼次郎は問いたげな視線を月子に向けた。 「舞踏会に何を着ていくかっていう話」  ああ、と蒼次郎は得心(とくしん)する。 「そういう時期ですか」 「招待状、来てる……?」  恐らく、と蒼次郎は気まずそうに答える。月子は肩を落として、馬車に乗り込んだ。
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