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蒼次郎は、十五時前に女学院の門前に四輪二頭立ての箱馬車で到着した。
十五時を過ぎた頃、舎内から女子生徒が、ぱらぱらと現れ始める。人流の中に月子を見つけた。珍しく女子生徒と一緒である。あれはたしか、下村咲子だ。父は陸軍少将を務めている。
咲子は、溌剌とした少女だ。その咲子と肩を並べていると、月子はいかにも閑かだ。
興奮気味に話す咲子の話に頷きながら、月子がやってくる。蒼次郎は馬車のドアを開けた。
咲子は蒼次郎に「ごきげんよう」と挨拶する。蒼次郎は、一礼を返した。
「では、月子さん、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
咲子は、跳ねるように駆けていく。蒼次郎は問いたげな視線を月子に向けた。
「舞踏会に何を着ていくかっていう話」
ああ、と蒼次郎は得心する。
「そういう時期ですか」
「招待状、来てる……?」
恐らく、と蒼次郎は気まずそうに答える。月子は肩を落として、馬車に乗り込んだ。
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