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心を咲かせ幕が下りる
「……答え?」
彼は顔を上げさせてくれなかった。
近すぎて、彼がどんな顔をしているのか見ることができない。
ただでさえ限界までくっついていたのに、さらに抱きしめられて、訳がわからなくなる。
何がわからないって、これまでにないくらい密着しているはずなのに、温もりが遠ざかっている気がするんだ。
「ごめん」
彼の声はくぐもって聞こえる。
何に謝っているのかわからないけど、ただ一つわかったのは、彼が間違いなく薄れていっていること。
「思ったより時間がなかったみたいだ」
ぎょっとした。
急に、理解してしまった。
「もっと早く来たかった。もっとお話していたかった。僕は、もっと……」
慌てて彼を強く抱きしめるけど、自分で自分をハグしただけだった。
「ごめん」
辺りは真っ白になる。
煙のような声が腕の中から離れて、消えた。
彼の姿はない。
ここには何もなくなった?
ううん、一つだけある。
彼がいたところに。
儚くて、ちょっと変わっていて、でも神秘的で。
目には見えない暖かさを内包しているような。
一輪の、花。
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