全てを知るは雪の精

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全てを知るは雪の精

「なんで?」  返答を期待したわけじゃない。思考がうまく回らなかった。  理解はした、と思うけれど、理解したくない。  呆然とする私の耳に、耳障りな高音が届く。 『想いが導くのは想いだけ』 『手紙が呼ぶのは想いだけ』 『私たちは想いを運ぶだけ』 『体は重くて持てないの』 『想いがプカプカしてた』 『だから運んできた』 『それがお仕事』  声のする方を向こうとしたけど、どこから声がしているのかはっきりしない。  声は続く。 『想いは体には成れない』 『さっき形が戻ったのは私たちのおかげ』 『でも想いは新しい形に作り直せる』  光が一箇所に集まって、孤高に咲く花を着飾った。  コロコロとした笑い声が空気を埋め尽くす。 『おめでとう』 『今度はおんなじ世界だね』 『すぐ隣だ』 『生まれ変わった』 『おめでとう』  充満する祝いの言葉が脳の中を満たしてきて苦しい。  耳を塞いでも目を閉じても、体を支配されたようにそのメッセージから逃れられない。  しばらくそうしてうずくまっていたら、いつの間にやら辺りは真っ黒に戻っていた。
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