導くは祈りの手紙

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導くは祈りの手紙

 1年ぶりの初雪は、久しぶりの地上を楽しむようにチラチラと舞っていた。  賑やかに踊るその姿に、胸が締め付けられて黒い感情さえ渦巻く。  辺りは靄がかかったように白くなっていた。  白い夜だ。  雪が降るときって、こんなに真っ白になるものだったろうか。  違和感を覚えながらも、私は立ち上がって家に向かう。  所詮言い伝えは迷信。  だったら私は、この想いを大事に抱えて、これからも一人で生きていくしか――。 「あれ?」  ただでさえ冷えている指先が、さらに冷たくなった。  掌の感覚がおかしい。  何もない。自分の肌と、服の感触だけ。  想いの象徴が、手紙が、跡形もなく消えている。 「うそ」  どこかで落とした? そんな。どこで。  振り返ってみても、そこには白しか見えない。  あの便箋も白基調だったから、きっと見つけるのには苦労する。  でも、探さなきゃ。  踵を返した私は、思わず足を止める。  キラキラとしたいくつかの声が飛び込んできた。 『帰っちゃうの?』 『帰らないの?』 『良かった』 『運んできたよ』 『お仕事したよ』  機械のように甲高い声たちは、私の耳のすぐ横で会話しているようだった。  やがてその“キラキラ”が一本の道になって、私の視線を誘導する。  一瞬、息が止まった。  人のシルエット。  そこだけ靄が晴れていって姿が明らかとなり、私の心の叫びが間違っていなかったことを知る。  思い出の、彼だ。
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