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私たちは目を合わせて、お互い動かずに向こう岸を見つめていた。
どうしたら良いのだろうか。
無言の時間は嫌いではない。
私たちはいつも、どちらかが声をかけるまでこうして2人の時間を過ごしていたから。
しかし、今この状況は、ちょっと気まずい。
彼もどこか困った顔で立ちすくんでいる。
そうしていると、また耳元で声が聞こえた。
『行かないの?』
『閉じちゃうよ?』
『お仕事頑張ったのに』
閉じる?
この道を?
彼に会えなくなる。
一度引いた涙が腹の底からこみ上げてきて、私は背中を押されるようにして彼のもとへ走った。
後ろから追いかけるように靄が空気を埋めていく。
靄から逃げるため、私はより力強く彼のもとに走っていく。
スピードを落とせなかった分、彼が細い体で私の体を支えてくれた。
その頃には、私たちの周りは真っ白の世界になっていた。
「……久しぶり」
彼はそう言って、顔を合わせるより前に、優しく私を抱きしめた。
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