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小雪の夜の中
「今どこにいますか?」
声に出してみる。手紙を読み進めて何行も先に控えめに書いた文章。
本当は一番に書きたかった。書けなかった。
無機質な感じを与えないようにと選んだ可愛い便箋で、かえってその存在は埋もれてしまった。
「また会いたい」
手紙にない一言を読み上げる。
下書きには書いたけれど、消してしまった。
代わりに書いた嘘偽りない心配の言葉は社交辞令にしか見えない。
白い息とともに出た声はさっきよりずっと弱々しくて、寒さのせいか震えている。
「会いに行きたい」
言葉にしようと思ったけど口が動いただけで、声にもならなかった。
下書きにさえ、書けなかった。
溢れんばかりの想いが喉をつまらせる。息が苦しい。
無味乾燥となってしまった手紙を胸の中に抱きかかえる。
温度のないそれは、私のことを温めてはくれない。
初雪が降るだろう小雪の夜が、私のことを冷やしていく。
「想いを込めた手紙に導かれて、初雪が想い人を運んでくる」
この辺りに伝わる言い伝えだ。
いわゆる都市伝説、所詮迷信。
そんな迷信に、私は今、縋ろうとしている。
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