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診断の結果、彼女はガンだと診断された。
脳腫瘍ができているらしく、それで倒れてしまっていたらしい。
記憶も、曖昧になることが多いだろうと言われた。
僕のことを、忘れてしまうかもしれない、と。
でも僕は、毎日のように彼女の元へ通い詰めた。
「どなたですか?」
入院して一週間後、そんなことを彼女に言われた。
初めて言われたときは心を蝕まれた。
それでも僕は作り笑顔で答えた。
「僕は君の彼氏だよ
……覚えてないかもしれないけれど」
彼女は日に日に何もかもを忘れていった。
忘れたりすれば、記憶を取り戻すこともある。
そんなことを繰り返していた。
入院してから一ヶ月後のこと、彼女は僕にいった。
「もう、私何も忘れたくないよ」
いつも笑っていたはずの彼女の目には、涙があった。
僕には、何もできなかった。
ただ抱きしめてあげることしかできなかった。
彼女は何度か手術をした。
だが、ガンは何度も転移していった。
入院してから半年、彼女はこう僕に言った。
「外に行きたいな」
窓の外を悲しく眺めながら、衰退しきっている彼女を見て、僕はその願いを叶えてあげたくて。
彼女の願いを叶えるべく、僕は医師に掛け合い、外に行けるようにした。
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