二章 2話 私を食べても美味しくありませんっ

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二章 2話 私を食べても美味しくありませんっ

「え、ちょっと、俺、人魚なんて初めて見る!すげー!ちょっと、よく見せてっ!触っていい?」 思わずばしゃばしゃと海に入って行くと、水面に上半身とヒレを出して尻もちをついていた女の子は、戸惑い気味に「は、はぁ……」と頷いた。 ドキドキしながら髪の色と同じピンクのヒレを触ってみると、つるっとしていて、固い。 「あ、あひゃひゃはっ!くすぐったいっ!」 「わっぷ!」 びちっとヒレが跳ねて海水を被ってしまった。 「わ、わわっ!す、すみませんっ!魔王様の伴侶の方にっ!!」 慌てて謝る女の子に俺は頭をぶるぶる振って笑った。 「謝らなくていいって。水掛かったくらいでさ。それより、人魚ってホントにいるんだなー!名前なんて言うの?どこに住んでんだ?」 「あ、えと……私、メアベルと申します。普段はこの海域の人魚の国に住んでますが……あの……ひっ!?魔王様の目がコワいっ!怒ってますっ!?」 メアベルはおどおどしながら答えていたけど、俺の後ろのキアに視線をやるとビクッと体を震わせた。 「あー……大丈夫だって。あいつ、俺が誰かと喋ってると大体あんな感じだからさ。それにしても、キアが魔王だったって何で知ってるんだ?」 そう聞くと、メアベルは落ち着かない様子で口を開いた。 「あ、あーそれはですね、人魚は長生きなんで……うちの父は魔王様が世界の脅威であられた頃から生きてますんで……それで先ほど魔王様の波動を感じた父が慌てまくってですね、自分で行けばいいのにあのオヤジ、臆病で腰抜けなもんだから、私に役目を押し付けやがって、行かなきゃもう人間の世界に遊びに行くの禁止なんて言いやがるんで、それで仕方なく私が……」 それが素なのか、メアベルは、ジト目で明後日の方を見ながらぶうぶうと文句を垂れていた。 「あはは、なんだ人魚も人間と変わりないんだな。メアベルは若く見えるけど、それでもやっぱり100才とか越えてんの?」 「えっ、いえいえ、私は遅くに出来た末っ子なんでまだ50才の小魚ですよ」 「まだ50才……!?小魚……??」 なんか色々突っ込みたい気持ちになったけど、それよりもメアベルがおずおずと上目遣いに言い出したことに気を引かれた。 「あっ、あの、私の肉食べても不老不死とかならないんで!食べないで頂けると嬉しいかなぁって……」 「え?人魚の肉食べると不老不死になんの?」 「あ、ああっ!?まずいっ!!逆に興味を引いてしまったっ!?ひ、ひぃいい!目が目がぁっ……獲物を見る目にっ!?」 「ぷっ!」 メアベルが青褪めてプルプルしているのが可笑しくてつい黙って見てたけど、やっぱり堪えきれずに笑い出してしまう。 「あはは!そんなに怯えなくていいって。俺、不老不死とか興味ねーし、つか、こんな風に意思疎通出来てる相手食うとかありえねーって」 そう言うとやっとメアベルはホッとした顔になった。 「はぁ~、魔王様の伴侶様がいい人で良かった……いやでもホント、人魚の肉で不老不死なんて都市伝説なんですよぉ……こんなの食べたって全然美味しくないですし、ましてや寿命が延びるなんて有り得ないのに、こんな妙な噂が流行ったおかげで、うちの父が若い頃は人魚を掴まえようとする人間がすごく増えて、大変だったみたいなんですよぉ」 「へぇ、そっか。まぁ、俺はそういうの興味ないけど、そういや物語に出て来る王様とかって不老不死求めてたりするよな」 俺の大好きなエルフィードサーガにも、そんなエピソードがあったっけ。 砂漠の国の王が重要アイテムを渡す代わりに、エルフィード達に不老不死の霊薬を取って来てくれってクエスト頼む話。 結局不老不死の霊薬なんてガセで、色々あって反省した王様が心を入れ替えて真面目になるってエピソードだったよな。 そんなことを思い出してると、それまでずっと俺の後ろで黙って立ってたキアが口を開いた。 「人魚の肉が不老不死の妙薬だなんてのは、確かに嘘だよね。単なる……の結果生まれたハイブリッドに、そんなとんでもない付加価値がある訳ない。だけど、思い出したよ。人魚の国に長寿の秘密があるのは、確かだよね。ねえ?メアベルとか言ったっけ?覗きの件を許して欲しければ、僕たちをお前の国に案内してよ」 「え?」 「え?」 人魚の国に行きたいの?キアが? 思いがけない言葉に、俺もメアベルもぽかんと間抜け面でキアを見返した。 だけど、理解が追い付いて来たのか、メアベルはブルブルと小刻みに震え始めた。 「そ、そ、それは、まさか国を滅ぼすとか、そ、そういうっ……!?」 この世の終わりみたいな顔のメアベルと対称的に、キアは人のいい笑顔を浮かべる。 「まさか。ただの観光だよ。ねえ、リオン。行ってみたくない?人魚たちは海の中で生きてるから、国だって海の中にある。普通なら絶対に行けないけど、僕なら何の問題もなくリオンを連れて行ってあげられるよ」 「えっ、マジで!?」 さっきまでメアベルにも人魚のことにも一切関心がないみたいな顔してたのに、いきなりそんなことを言い出したキアに、俺も少しは妙だなとは思った。 だけど、行きたいか行きたくないかで言ったら、そりゃ行ってみたいに決まってる。 だって普通なら絶対に行けない、なんて国だぜ? めちゃくちゃ興味あるよ! それにキアが何考えてるか分かんねーけど、俺に危険が及ぶことなんか、キアがする訳ねーもんな。絶対に。 「もしメアベルが迷惑じゃなかったら、俺、人魚たちの国に行ってみたい!いいかな?」 テンション高くメアベルを振り返ると、メアベルは放心したように宙を見ながら何かブツブツ呟いていた。 「あ、ああ……どうしよ……まさかこんなことになるなんて……なんで私がこんなとんでもない面倒ごとに巻き込まれなきゃいけないのぉ?絶対、破滅を連れて来たとかってあのオヤジに詰められて理不尽にも罰だとか言って人間界に行くの禁止にされる……それどころか牢にぶち込まれるかも……でも連れてかないなんて言おうものなら、魔王様に私の存在が消されるっ!それは嫌ぁああ!まだ私、人間と物語みたいな恋もしてないし、死にたくないぃいい!ああもうここに来た時点で私、詰んじゃってるよぉ!」 虚ろな目で空を見つめて呟くメアベルは、せっかく可愛い顔をしているのに、ゾンビみたいになってた。 な、なんか悲壮だな…… さすがに可哀想かも。 「大丈夫だってメアベル!俺がお前のオヤジにちゃんと説明してやるからさ!お前が理不尽に罰なんて受けなくて済むように、協力するから!困ってる奴を助けるのは勇者の務めだしさ!」 「……え?勇者?まさか魔王様の伴侶が、勇者なんですかっ?まさか、そんなことある筈……」 虚ろだったメアベルの目がびっくりしたように見開かれて、俺は頷いた。 「そんなことあるんだよ。俺は勇者だし、キアは元は魔王だったかもしれねーけど、今はもう魔王じゃねーし、国滅ぼしたりだとかさ、そんなこと絶対しねーし俺がさせねーよ。だからそんなに怯えなくても大丈夫だって」 「情報量が多すぎるっ!あ、いえ、確かに伴侶様は優しそうだし、勇者ならもし魔王様が暴走しても、止めて貰えるかも……う~~~~ん」 ブツブツ呟いていたメアベルは、意を決したように顔を上げるとこくりと頷いた。 「わっ、分かりました……!私たちの国、シャーリンエイビスにお二人をお連れします!」 ****** この後のストックがない……フラグが何だったのかは思い出したので、何とか頑張ろうと思います(´ ω` )ここまで読んで下さった方、スター応援やページスタンプなど下さった方々ありがとうございます!めっちゃ嬉しいです!
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