3話 やっぱ技名は叫んでなんぼ

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3話 やっぱ技名は叫んでなんぼ

そして待ちに待った翌朝。俺とキアは準備万端、家を出た。 「キア、リオンの事よろしくな」「キアも体に気を付けるのよ」 「分かってるよ。リオンがお腹壊さないようにちゃんと食べ物と水には気を付けるし、迷子にならないよう僕がしっかり掴まえておくから、父さん達は安心してて」 「何、経験者ぶってんの?お前だって初めて村出るくせに」 父さん達に小さい子を任される保護者っぽい事を言っているキアを、俺はじろりと見た。 キアは平然と言う。 「僕はリオンより色々物を知ってるから」 「へーえ、ほーお、ふーん?同い年で俺もお前もこの村しか知らないのにねえー。不思議ですねえー」 「なに、拗ねてるの?全くこんな事で可愛いなあ、リオンは。ねえ、安心してよ。リオンが何も知らなくても僕がいるから大丈夫。僕がずっとリオンを守ってあげるよ。それに人里に降りたらきっとリオンは・・・ると思うけど、リオンに群がる害虫は僕が残らず・・・してあげるからさ・・・」 え?なになに?ちゃんと聴こえなかったけどなんか後半怖い。なんかキアから黒いオーラ立ち昇ってるし。 俺はぶるぶるっと身体を震わせると、気を取り直して声を上げた。 「いっ、いいから!早く行こーぜ!じゃあな、父さん母さん!世界一回りしたら土産持って来るからなー!」 元気に手を振る俺に、両親も振り返してくれる。キアはその様子を微笑んで見ていたけど、ふ、と振り返って言った。 「父さん、母さん。次に帰って来る時は、僕達結婚して一緒に暮らす事になっているから。もう僕の部屋は物置にしていいからね」 ・・・早くキアに現実を教えてやりたい。 村を出た俺達は、断崖絶壁の『嘆きの崖』の上に立って、眼下に広がる広大な森と、その森の外れの、遠くにうっすら見える灰色の石造りの街の輪郭を眺めていた。 まずはこの村から一番近い、王都イグニシアに向かうつもりだ。 一回も村から出た事はないけど、父さんは月に一度は王都に行ってた。何度も連れてってと言ったけど、子供には危険な行程だからって、一度も連れてって貰えた事がない。 18才近くになっても、村から出ちゃダメ、の一言で行けてないんだよな。村で一番腕の立つ父さんの一言は重いから、そう言われたら、それに反抗してまで行こうとは思わなかった。 けど、話は色々してくれたから、少しは王都がどんな所なのかは知ってる。 王都で冒険者ってやつになると、各国を自由に行き来できるらしいから、まずはそれになろうと思うんだよね。そして世界各国を見て回るんだ。 「じゃあ行くか」 「そうだね。ああ、リオンと一緒に旅が出来るなんて、ホントに幸せだよ。魔物が出たら僕に任せて」 キアは本当に嬉しそうに愛おしそうに俺を見ながら言う。 「いや、お前に丸投げしてたら俺が成長できねーだろ!俺がまず戦うからな。お前はサポートの方やっててくれよ」 「そう?じゃ分かった。リオンがそういうならそうするよ」 キアは素直に頷いて、にこりと笑った。 珍しいなー。こんなに機嫌がいいの。 そんなに旅に出られるのが嬉しいのかね。 「じゃここ降りて走るか」 崖の下を覗き込むと、下から風が吹き付けて顔を撫でた。いつ見てもどのくらい高いのか分からないくらい高いけど、まあ木もあるしどうにかなるだろ。 「分かった」 キアも頷く。 『身体強化(ブースト)』 俺達は魔力を込め肉体を強化すると、崖から飛び降りた。 びゅうびゅうと耳の傍で風が音を立てる。すぐに地上の木々が迫って来て、俺は両手で枝に触れながら、くるくるっとうまく身体を回して、勢いを殺しながら地上に降りた。 すぐ傍に同じようにキアも着地する。 「じゃあここから走って行くか」 「うん」 速度を上げて、さっき見えた王都の方向に向かって走り出した。 王都までは普通に歩いたら3日かかるらしい。でも旅に出て早々、野宿なんてイヤだしな。子供の頃から鍛えてきた魔力と身体能力を使って、鍛錬も兼ねた時間の短縮を図ろう。 ザザザーッと俺たちが森を疾走する音が響く。視野や視力も強化されているから、障害物も前もって見えているので、高速で走っていてもぶつかることはない。たまに邪魔な枝があれば、剣とは別に持ってきた鉈で切り落とす。 「リオン、いるよ」 少し行ったところでキアが止まった。俺達の少し先の茂みから不穏な気配がする。この気配は、村の周辺で良く出るやつだ。 「分かってる、任せとけ!」 よーし!この聖剣(笑)、初の出番だー! 俺は剣を鞘から抜くと、魔力を込めて茂みに向けて振るった。 「エアスラッシュ!」 ざんっ! 斬撃が大気を震わせて、茂みどころか周りの木々も数十本まとめて吹っ飛んだ。あれ?なんか威力上ってない?やっぱ剣がいいからかな。さすが腐っても聖剣(笑)だな。 魔物どころか辺り一体、全部吹っ飛ばしてしまったけど、まあいいだろ。 「やったな・・・」 ふ、と髪をかきあげて悦に入っていると、キアが呆れたのか、表情が死んだ顔で俺を見る。 「リオンの事愛してるけど、その、技名をいちいち叫ぶところとか、キメポーズするところはどうかと思うよ・・・」 「いーじゃんかよー!お前だってこういうの、憧れるだろっ?」 「いや全く」 そんなやり取りをしながら吹っ飛ばした所を一応確認すると、やっぱりダークリザードという魔物が事切れていた。 真っ黒い鱗が全身を覆い、鋭い牙が生えた大きな口で人を食う凶悪な二足歩行の魔物だ。 こういうのがうろうろしているから、俺の村では子供だけで絶対に外に行かせない。 「こいつ食えないしなー。ほっとくと瘴気出て来るから焼くか?」 そう言うと、 「じゃあ僕がやるよ」 キアが片手をダークリザードの死骸に翳すと、黒い焔に包まれてあっという間に灰になった。 「ほら、技名唱えなくたって、出来るんだから。この方がスマートじゃない?」 俺を見て意地悪そうに微笑むキアに、俺はぷいっと横を向いた。 「へーんだ。そんなのつまんねーじゃん。やっぱ技名は叫んでなんぼだろ」 「はあ・・・そこだけは分かり合えなくて残念だよ」 そんなやり取りをしながら、俺達はまた走り出して、今度は途中で魔物に遭遇することもなく、日が暮れる前に王都に着いた。意外と早かったな。 それほど疲れてもいないし、いい鍛錬になった。
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