5話 給仕のお姉さんに誘われたと思ったらキアにべろちゅーされた

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5話 給仕のお姉さんに誘われたと思ったらキアにべろちゅーされた

「あっ、この店旨そうじゃね?」 俺が指差したのは、肉と果物の絵が描かれた看板の掛かった店。前を通っただけで肉を焼くいい匂いが漂って来る。 「うん、そうだね。ここに入ろうか」 キアも微笑んで頷く。 木の扉を開けるとカランカランと扉に付いているベルが鳴った。へえー面白いな。 中には丸いテーブルの席が10個くらいあって、カウンターに座っている人もいた。なかなか繁盛しているみたいだ。 「うわー、本で読んだ酒場そのものって感じー!すげえ!ホントに酒瓶とか並んでる!」 「いいから、早く座ろうよ。ほら、あの奥のテーブルに行こう」 キアがはしゃぐ俺の背中を押して、奥のテーブルに座らせると、しばらくしてから給仕のお姉さんがテーブルにやって来た。 お姉さんは金色の長い髪の毛を後ろで一つに結んで、裾の長い服を着ている。俺とキアを見て、にこぉっと微笑んでくれた。さっきのおっさんと比べるとめっちゃ感じいいな。 「いらっしゃいませぇ♡何にします?」 ・・・何があるんだ? 「え?えーと」 「今日のお勧めがあればそれを2人前と、あと葡萄酒を2つ下さい」 「は~い、分かりましたぁ~♡」 俺がまごついている間に、キアがさっさと慣れた感じで注文して、お姉さんは機嫌良さそうに向こうへ行った。 「え?なに?なんでキアそんな慣れてんの?なんで?」 頭に???マークが大量に浮かんでそう言うと、キアはくすっと笑った。 「リオンは勇者の本ばっかり読んでたけど、一般常識の本も家にはあったんだよ。それに書いてあったんだ」 「え、そうだったの?そんなん家にあったなんて全然気付かなかった・・・」 「ほんと、リオンは勇者の話しか興味なかったもんね。まあそんなリオンも好きなんだけど」 肩をすくめるキアに、俺は(あ、機嫌直って来たな)と少しホッとしていた。 人生で初めての旅に出て、初めての王都に俺ははしゃいでめちゃくちゃ楽しんじゃってるけど、キアが楽しめてないのは嫌だなって思ってたから。 それからキアと王都の感想とか色々話していると、さっきのお姉さんが料理と葡萄酒を持って来てくれた。 「お待たせしましたぁ♡今日の料理は子羊の香草焼きとジャガイモのチーズ掛けです♡」 お姉さんがテーブルに置いてくれた料理を見て俺は思わず声を上げる。 「うわ、旨そう!」 こんがりとキツネ色に焼けた子羊っていう肉は、母さんが時々使ってるみたいなハーブがまぶされていて、とてもいい匂いがする。ジャガイモに乗っかってるチーズもとろけてて、熱々だ。 それにパンが二つ付いていた。 「いただきまーす!」 とまず肉にかぶりつくと、じゅわっと肉汁が溢れて来てめちゃくちゃ旨い。うまっ!これうまっ! 「美味しいですかあ?良かったです♡」 ん?夢中になって食ってたから今気付いたけど、そういやまだこのお姉さん居たんだ。 俺がお姉さんを見上げると、お姉さんは頬を染めながらこんな事を言って来た。 「そのぅ、もしこの後お急ぎじゃなかったらぁ、お食事終わってから私とお酒でも飲みに行きませんかぁ?私もうすぐ上がりなんでぇ」 え、これってどういう事?と俺が固まっている間に、キアがテーブルに乗り出して俺の顎をクイッと引き上げ、ぶちゅーっとキスをかまして来た。 「んんっ!?」 しかも、舌まで入れて来やがった。な、な、なんて事するんだ!人前で!やめて! 俺がバタバタと暴れだすと、キアはやっと唇を離して、お姉さんを振り向いて言った。 「彼、僕のものだから。君の入る隙間なんてないんだよ。分かったらさっさと仕事に戻れば?」 「す、すみませんんんっ!」 俺達をぼうっと見ていたお姉さんは、一気に真っ赤になると急いで離れて行った。 「ちょっ、キアっ!何すんだよ、人前だぞ!?」 気付くと周りの席の人達がみんな俺達の事見てたから、俺はさすがに恥ずかしくなって、小声でキアを責めた。 「ごめんね。だってああでもして分からせないと、リオンに粉掛けて来る害虫が後を絶たないからね」 キアは微笑みながらも、目が笑ってない。 「害虫って何だよ!こえーな!」 「僕言ったでしょ。リオンは街に降りたら絶対モテるって。それよりも、人前だから嫌だったんなら、人前じゃなきゃいいって事だよね?」 「ちげーよ!それにいっつも舌入れてくんなって!」 「だってリオンが可愛すぎて我慢できないんだよ」 「もー!はいはい!分かったから、もう冷める前に食おうぜ」 とりあえずまだ腹は満足してないし、さっさと続きを食べたくなって、俺はそう言って肉を齧った。 いきなりされるとその時はびっくりするけど、なんかもう俺も感覚が麻痺して来たのか、キアのべろちゅーに思ったほど動じなくなってしまったかもしれない。 こんなの慣れてどうすんだって話なんだが。 うん、やっぱうまっ。 「宿に帰ってから楽しみだなあ」 キアは独り言のようにそんな事を言って、いつものように上品にナイフとフォークで肉を切り分けてから口に入れていた。 「美味しいね」 そう言って微笑むキアは、今度は本当に嬉しそうで、その顔を見ていると俺もなんだか嬉しくなった。なんだかんだ言っても、やっぱりキアは大事な俺の家族であり、幼馴染なんだ。 葡萄酒はいつも家でも飲んでたから、馴染みの味って感じだったけど、浮かれてた俺はお代わりして3杯くらい飲んだ。もう17才で大人だしな。ちょっと酔っても大丈夫だろ。キアも「僕がいるから大丈夫だよ」って言ってくれるし。 食事も全部平らげて葡萄酒も飲んでほろ酔いになった俺は、キアに手を引かれて宿屋に帰った。もう外は暗くなってて、初めてこんな時間に家以外の場所にいるんだなあ、と思うと、感慨深かった。
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