1話

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「三浦さんさ、本気で誰かを好きになった事ないでしょ」 「は……?」 デート開始5分。話がしたいと連れて行かれた喫茶店で開口一番言われた言葉に呆然となった。 「急に何……?」 「三浦さんの男を選ぶ基準って外見だけしかないよね。中身なんて見ようともしてない。君自身が見た目だけだから」 「……どういう意味」 「そのままの意味だけど。見た目も好きになる1つの要素だけどさ、三浦さんの場合それしかないでしょ? だから誰とも続かないんだよ、君」 「っ……」 「三浦さん、狙った男は逃がさないって言われてるんでしょ? 実はそれに続きがあるって知ってた?」 「続き……?」 「三浦樹里は狙った男を逃がさない、でも誰とも続かない。そう言われてる」 何それ……そんなの初めて聞いたんだけど。ていうか、何で私こんな事言われてんの……? 「本当は君に誘われた時すぐ断ろうと思ったんだけど、あまりにも皆の前で堂々と誘われたから断りにくくてさ。プライド高そうだから下手に皆の前で断ると後が怖そうだし」 「……」 「ということで、俺そろそろ行くわ。それ言いたかっただけだし、実は彼女がそこで待ってるんだよね」 「……は?」 彼女いるとか聞いてないんだけど。流石に彼女持ちに声かけるようなバカな事したことないのに。 「三浦さんに声かけられる前の日に付き合い始めたんだ。ずっと片思いでやっと掴まえたのに誤解させちゃったから、君を利用したみたいになっちゃったけど、俺が誰にも靡かないって所を証明しようと思ってさ。じゃあまあ、そういう事だから」 さっさと席を立って歩いて行く男を目で追うと、そこには特段可愛くもなく美人でもない平凡な女が席に座っていた。 あの人にずっと片思い……? 「ごめん、お待たせ」 「本当にいいの……?」 「いいに決まってるじゃん。俺がどれだけ君の事好きだと思ってんの。ほら行こ。行きたいお店あるって言ってたでしょ」 伝票を持って彼女の手を取った男は、私の事なんて振り向きもせずに店を出ていった。 ……何なの?!意味が分からないんだけど!何で私があんなこと言われた挙句に、彼女とのラブラブっぷりを見せられないといけないわけ!?しかもあいつ、彼女の伝票は持って行って払ったくせにこっちはスルーしてるし! 「お客様、ご注文の商品をお持ちいたしました……が、2つとも自分で飲みますか?」 「はいっ?!」 癇に障る言い方に、不機嫌なまま答えて店員を見ると見覚えのある男が立っていた。 「あんたは……」 「あ、俺の事覚えてるんだ三浦さん」 ……忘れるわけない。2週間前のあの日、倉重隆司にフラれた時に一緒に居た男だから。なんならこの男にもちょっと説教じみた事言われたし。 思えばあの時から、色々と上手くいってない気がする。 「……何よ、笑いにでも来たの」 「店員の仕事しにきただけだけど。それでどうする? 珈琲2つとも飲むか?」 「どっちもいらないわよ。私もう出るから」 「勿体ない。どうせお金払うんだし一杯ぐらい飲めばいいのに。うちの珈琲美味いって割と評判良いよ」 ……確かに勿体ない気はする。あの男がお金置いて行かなかったせいで全額私負担だし。 「じゃあ……一杯だけ」 「はい。じゃあこちらをどうぞ」 「……ありがと」 いい香り……珈琲の匂いってちょっと癒される。 一口飲むと、珈琲独特の苦みは感じるのにまろやかで飲みやすくて好きな味。 「美味いだろ?」 「うん、美味しい……って、何でまだいるの?」 「ちょっと気になってさ」 気になった……?って何が? 「結構ズバズバ言われてたし、ショック受けてるみたいだったから」 「聞いてたの……?!」 「聞くつもりは無かったんだけど、後ろの席の片付けしてたから聞こえちゃってさ」 「だからって、聞き耳立てるなんて店員失格じゃないの?」 「俺も普段は聞かないようにしてるけど、知り合いがあんなこと言われてたら誰だって気になるだろ」 知り合いって……2回しか会った事ないじゃない。しかも、私は学祭の運営辞めたからこれから関わる事だって無いのに。 「……自分だって似たような事言ったくせに」 「あれは君がやり過ぎだったからでしょ。まあ、フラれた直後に追い打ちかけたのは謝るけど、今とあの時じゃ全然状況が違う」 「どういうことよ」 「あの時は明らかに君に非があったけど、今日はたださっきの男とのデートを楽しみに来たわけでしょ? あっちにも色々理由はあったみたいだけど、あれはちょっと酷いと思うからさ。彼女いるってさっさと言えばいいだけじゃん」 「……何それ」 あの時は私を責めたのに、今は私を心配してるって事……?意味分かんない。分かんないけど……何だろ。さっきまであんなにささくれ立ってた気持ちが少し落ち着いた気がする。 「新海君、こっちお願い」 「あ、はい。今行きます。じゃあ俺戻るわ。珈琲ゆっくり飲んで」 「……うん」 変な男。自分の友達の彼女にあんなことした女、普通話しかける?ざまあみろと思ってもおかしくないのに、逆に心配するとかどれだけお人好しなのよ。 「……見た目だけ、か……」 好き勝手言わないで欲しい。私がその見た目のせいでどんな目にあったかなんて何も知らない癖に……
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