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8話
目が離せなくてお互いに無言で見つめ合っていると、急に隣の席から小さく声が漏れ聞こえてきた。
「ちょっと……ダメだって。隣に人いるんだから」
「いいじゃん、ちょっとぐらい。見えてないし大丈夫だって」
「だーめ」
明らかに恋人同士がじゃれ合っているんだろう会話に、私達はふと我に返って知らずに近付いていた距離を離した。
さっきの何だったの……思い出すだけで、顔に熱が集まって心臓の鼓動がどんどん増していく。
「あの……俺さ……」
新海君の小さな声が聞こえて横を見ると、今度は館内が暗転して大きな音が流れ始める。
「……予告、流れ始めたな」
音の正体は、映画が始まる前に流れる予告映像だった。つまり、もうそろそろ映画が始まるってことだ。
「――そろそろ始まるみたいだし、映画楽しもうな」
「……そうだね」
さっきまでと打って変わって、いつもと同じ笑顔の彼にホッとしながら、何を言おうとしたのかが気になって仕方がない。
映画の最中に横顔をチラッと覗き見ても、その表情からは何も分からなかった。
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