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2話
珈琲を飲み終わって会計に行くと、またさっきの男が現れた。
「……ご馳走様」
「少しは落ち着いた?」
「……うん」
「それは良かった。じゃあ、240円になります」
「え?」
240円って一杯分じゃない。
「一杯はサービスしとく」
「バイトのくせに。そんな事したら怒られるんじゃないの?」
「あれ、心配してくれるんだ」
「別に心配してるわけじゃ……」
「大丈夫だよ。俺が後で払っとくから」
「……何で?そんなことする理由ないじゃない」
私にそんな事したって何のメリットもないはずなのに。
「んー……女の子には優しく的な?」
「……意外と女たらしなの?」
「失礼な。俺は好きになったら一途だよ」
「それはそれで、見た目通りって感じで面白くないんだけど」
「どうして君はそう……まあいいや。はい、お釣り。それと、サービス券あげる。また来なよ」
「……考えとく」
来るとは言わずに店を出て振り返ると、入り口のドア越しに目があった。
「……本当変な男」
笑顔で見送っているのを見ながら呟いた言葉は、思った以上に力がない。
特別イケメンなわけでもモテそうでも無い男なのに、優しそうに笑った顔が家に帰っても頭から離れなかった。
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