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「ん……」
目が覚めると部屋の中が真っ暗になっていた。だるさの残る体を起こして時計を見たら、もう夜になっている。
「何時間寝てたんだろ……まだちょっと熱っぽいなあ……」
体温計に手を伸ばして測ると、まだ37度台。元々だるかった体が、それを見て更に重くなる。
「ご飯どうしようかな……」
コンビニに行く気力は正直ない。デリバリーも考えたけど味が濃そうな物ばかりで、喉が痛くて風邪をひいた体には辛過ぎる。
それに……何度考えてもやっぱり頼れる人は居ない。寝たことで一度忘れていた心細さが蘇ってくる。
どんなに見た目を変えても、昔も今も結局私は1人ぼっち。家族以外には助けてくれる人もいない……そんな現実に涙が溢れそうになった時、スマホに着信が入った。画面に表示された名前は新海晶――ここ最近、数日に一度は見ていた顔が思い浮かんだ。
「……はい」
「すごい声だな。どうした?」
「……風邪ひいた」
「なるほど。それで店に来なかったのか。さてはあの日、雨に濡れて帰ったんだろ」
「うん……」
「だから傘貸すって言ったのに。熱は?」
「37.6度」
「まあまあしんどいな。食べるものとかあんの?」
「……ない」
電話の向こうで大きな溜め息が聞こえる。
「持ってきてくれる人は?」
「……いるわけない。実家遠いし、友達いないし……」
「じゃあ、俺が持って行ってやるから住所教えて」
「え?」
こんな時間から態々私のために……?
「別に差し入れ持っていくだけだから警戒しなくてもいいだろ」
「警戒してるとかじゃなくて……いいの?」
「何が?」
「こんな時間だし、バイトの後なんでしょ?」
「あのな……体調悪くて困ってる人間がいるのに、そんな理由で見捨てられるわけないだろ」
「そう、なんだ……」
「どうした?」
「……ううん、何でもない」
あんなに心細かったのに、安心と同時に嬉しく思っている自分がいる。
「何か食べたいものは?」
「喉が痛いから……」
「あー……じゃあ、プリンとかアイスとかがいいかもな。一応レトルトのお粥とかスポドリも持っていくから。住所送っといて」
「……うん」
電話を切ってメッセージで住所を送ると、20分ぐらいで行くという返事が返ってきた。
「私を助けようとしてくれる人もいるんだな……本当、どこまでもお人好し」
メッセージ画面を見ながら、気が付いたら自然と笑みが零れていた。
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