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 その時、意識を失っていたモーリスの手がぴくりと動き、「シェリー……」と呟きました。  慌ててモーリスを揺さぶります。 「モーリス! しっかりして!」 「つまりそれが答えかい?」  顔を顰めて頭を抱えた魔女は、深いため息をつきました。 「掟を破った者には罰を与えないとね」  魔女は、私に手の平を向けました。  なに、と思った瞬間に、恐ろしい力で体が引っ張られます。 「何!?」  魔女の手にはあの小瓶。私の体は、抗いようもなくその中へと吸い込まれていきます。 「ああ!」  マリー姉さんたちが息を呑む声が聞こえました。 「お前に、呪いをかけてやろう。小瓶の中から出るためには、外の人間と恋に落ちなければならない。だが、お互いに愛し合った瞬間に、今度はその人間が小瓶に入ることになる。同じ相手とは決して愛し合えない。永遠に、叶うことのない愛に苦しむが良い……私のようにね」  ごぽり、と音を立てて海水が背中から襲いかかってきます。  水流に押し込まれるように、私は小瓶の中へと閉じ込められました。無慈悲に瓶の蓋が閉められます。 「やだ、出して!」  必死にガラスを叩きますが、びくともしません。  瓶の外で、モーリスが意識を取り戻したのが見えました。 「モーリス!」  はっと私に気づいたモーリスが、魔女に立ち向かおうとします。  しかし、彼は見えない力で後ろに弾き飛ばされました。 「ねえ出してよ! お願い!」  魔女を見上げて叫びますが、彼女は私を一瞥し、モーリスに視線を戻しました。 「愚かな男よ。お前もすぐにシェリーのことなど忘れて、他の女と恋に落ちるのだろう? なら今すぐに、忘れてしまえ」  彼の頭に手をかざす魔女。 「やめて!」  私の叫びは届きません。  一瞬はっと目を見開いたモーリスは、虚ろな瞳になり、ふらりと地面に倒れました。 「これでこの男の記憶も消えた。さあ、シェリー。存分に絶望するが良い」  小瓶に顔を近づけて、魔女は不敵に笑いました。  そして、次の瞬間。  小瓶を海へと投げました。    ガラス越しに、モーリスと歩いた街並みが遠ざかっていきます。  あれは彼が靴を買ってくれた店、あれは彼と腕を組んで歩いた街、あれは彼と出会った海岸……。  そして、大きな波が小瓶を飲み込みました。  波に飲まれ、私の意識はふつりとそこで途切れました。
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