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 姉さんたちが波に消えた後、私は大きく伸びをしました。  明日に備えて、もう少し寝ようかしら。  波に体を委ねて静かに目を閉じました。しかし、朝焼けの光はどんな光よりも眩しいもの。目を閉じていても、瞼の裏に太陽の朱色が映ります。 「やっぱり起きましょう」  呟いて、もう一度伸びをしました。  思えば、この朝日を見るのも今日が最後です。  生まれ落ちた時から毎日、この浅瀬で過ごしてきた私には、この場所以外のことは何もわかりません。  知っているのは、この海と空と、姉さんたちが教えてくれたことだけ。  姉さんたちが「知らなくて良い」と言うことは、知らなくて良いのです。  だってそれが、私たちの常識だから。 「最後なんだし、この辺りを少し散歩してみようかしら」  人間がいるのは崖の上です。  崖の下、海岸沿いを散歩するくらいなら、きっと問題はないでしょう。  岩に手をついて陸に上がると、さらさらした砂が濡れた肌にくっつきます。  ヤドカリが1匹、慌てたようにどこかへ逃げて行きました。  陸に上がるのは久しぶりです。いつもは浅瀬で、半身浴するように海に浸かっていますから。  そっと砂浜に足を下ろすと、指の間まで砂が入り込んできます。なんだかそれがくすぐったくて、くすくす笑いました。 「これも最後なんですものね」  ゆっくりと足を踏み出します。  足の形に残る、柔らかい砂。波と一緒に手の平に掬うと、元の場所に戻りたいと言うかのように、指の間からさらさらと零れ落ちました。  寄せては返す波が、からかうように時折足首を濡らします。
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