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 崖に沿って作られた細い階段を上り、道路を少し歩いた先に、小さな市場がありました。  石畳の道、大きな噴水、煉瓦でできた家、お店のテント。  初めて見るものばかりで、私はきょろきょろとあたりを見回しました。 「すごい、こんなところで人間は過ごしているのね」  横を見ると、モーリスは店先で何かを買っています。 「足出して」  戸惑いつつも足を出すと、ひざまずいたモーリスは私の足に靴を履かせました。 「……靴?」 「そう、履いていないと目立つからさ」 「きれい」 「よかった」  歩きやすいように、と慮ってくれたのでしょう。ヒールのない、貝殻のような白い靴は、私の足にぴったりでした。  履き慣れず、よろめく私にモーリスはそっと腕を差し出します。遠慮がちにその腕を取ると、モーリスは優しく微笑みました。  その後も、物珍しそうに私が立ち止まる度、彼は丁寧に説明してくれました。  「パン」と呼ばれるふわふわの食べ物を買ったり、海の色のような鮮やかな青色の髪飾りを見たり。  気がつくと、すっかり太陽は地平線の向こうに沈み、夜の足音が近づいておりました。
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