第一章

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要side  転校生の出迎えが終わったと思われる千栞が生徒会室に来て1番目に発した言葉は「爽やかくん!」だった。 そんな千栞の言葉にすぐさま反応したのが春くんだった。 「え!?爽やかくん!?」 大袈裟と言いたくなるほどの反応にボクはクスリと笑ってしまった。 「あ!要さん何笑ってるんですか!」 僕のすぐ側まで来て頬を赤くさせながらぷっくりと膨らませている春くんはいつもの春くんだ。 彼がこれほどまでに反応すると言ったら、テストが近づいたことに気づいた時とかお菓子ボックスに入っている自分のお菓子が食べられた時とか色々ある。 そんな時は騒がしさにうんざりしたように成音が「どうした」と聞くのが定番である。今回も成音がその四文字を発した。 「僕、同じクラスに見た目が爽やかくん!っ感じの奴いるんですけど、そいつ、めっちゃ俺の事煽ってきて、特に身長とか!会う度にいじってくるし…。爽やかくんって聞いたらそいつのこと思い出して驚いちゃったんです。  でもそいつも酷いんですよ!春樹のやつ、身長2m近くあるから春樹が背高いだけなのに!」 プンプンという効果音がそのまま当てはまるように春くんは言った。 「身長を気にしている人からしたら身長をいじるような言葉は禁句だからね」 「あ!大輝それ嫌味?すっごい傷ついたよ、僕」 幼なじみという仲だからこそこういう風に言い合えるのがすごく羨ましく感じる。 いつもどおり喧嘩が始まり、この程度の喧嘩なら少し経てば終わるだろうと思い視線をずらす。 彼らの明るさのおかげで真優のことの不安も少し落ち着いてきた。 この明るさがボクは好きなのかもしれない。 もしかしたら僕が好きなのかもしれないけど、 それは、ないかな。  視線を逸らした先では成音が理由の内容とかがあまり重要に感じなかったのか、黙々と仕事を進めていた。 成音を見ていたら後ろからトントンと肩を叩かれた。 振り向くとその正体は千栞だった。 「ようちゃん。昼休み、爽やかくんに校舎案内してあげて」 「わかったよ」 真優と話すことに不安はあるが、その不安を千栞に悟られる訳には行かない。 言い換えればよろこんで、とも言えるように了承の返事を伝えた。 一瞬だけモノクロになった世界の中で思った、昼休みなんか来なければいいのにという小さな願望を胸に。
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