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危ない所だった。あのままだと、彼に深みにハマる所だった。はじめて会ったのに、あんなに親しくなれたのは彼がはじめてだった。自分はもともと引っ込み思案で臆病な性格で、誰とも話さずに無口な性格だ。なのに私は知らない間に彼と親しくなってしまった――。
一時の会話だったのに、自分でもおかしい。クリスマスのせいなのか人恋しいのかも知れない。まったくおかしな感情だ。私はフとそこで立ち止まって笑うとクリスマスの孤独に不意に胸の奥が押し潰されそうになった。
そんな時、誰かが私の右肩をグイッと後ろから引っ張ってきた。パッと振り向くと、さっきの彼がギターケースを背負ったまま、息を切らせて話かけてきた。
「すみません、これ……!」
青年が差し出してきたケーキの箱に、私は戸惑いを見せた。
「あっ、いや……、その……」
私は彼に声をかけられると少し慌てた。
「急に帰るからビックリしまったよ。あっ、そうだ。このケーキ俺にくれるんですか?」
「ああ。そ、そうだ…――」
「本当ですか?」
「ああ、きみに良い歌聴かせて貰った礼だ……」
そう言って恥ずかしそうに彼の前で瞳を反らした。
「なんかよくわからないですけど、ありがたいですねぇ。良かったらこのケーキ、一緒に食べません?」
「え、きみと……?」
「そうですよ、いいですよね?」
「ああ、それもいいかもな…――」
「え?」
そう言って言い返すと、彼は目の前でニヤケながら言ってきた。
「やっぱり……おにーさん、さては俺に惚れてますね?」
「なっ、何……!?」
「いいですよ答えなくても。でも、何となくわかるんですよね。俺そっち系の人を見抜くの得意ですから――」
「なっ…!?」
その言葉に思わず焦った。
「私は別にゲイじゃないぞ!? 私はだな…――!」
「いーですよ、いーですよ、そんなムキに隠さなくても。あっ、俺の名前は優輝です。ここでストリートミュージャンをやっています。いつもこの辺で歌っていて、よく貴方を見かけるんですよね。で、スーツが似合うカッコいいリーマンだな~って思って見てたりしたり……」
その言葉に思わず耳まで赤くなった。
「きみ、見ていたのか…――!?」
「いや。みてたって言うより、どうしても自然に目に入っちゃうもんで……」
「なっ!?」
「俺、けっこう貴方みたいな人タイプだったり?」
そう言われた途端、私は一気に焦った。
「私はゲイじゃないぞ、ゲイじゃ……!」
「そうですか? そうやって反応すると余計に怪しいですよ?」
「なっ、何……!?」
「まあ、いいや。じゃあ、二人で仲良くケーキ食べましょ! やっぱり一人きりのクリスマスは寂しいですよね!? 大丈夫、俺はケーキなら何でもイケるので好き嫌いありません!」
青年はそう言って私の肩に馴れ馴れしく腕を回してきた。私が必死でゲイじゃないと否定しても彼はケラケラと笑っていた。こうして私は、一人きりで過ごすはずだったクリスマスを他の誰かと一緒に過ごす事になった。運命とか出会いだとか、突然だってよく聞くけど、私の運命の出会いも突然だった――。
あの日、クリスマスに出会った彼とは、あのあと色々とあって付き合いはじめて今では同棲している。そして、あの日のクリスマスの事を思い出しては二人でよく笑っていた。
あの日、二人で食べたケーキの味も今では良い思い出だ。そして、彼の聴いた歌声も、彼の歌声を聴いて感動したことも全部だ。
嫌いで憂鬱だったクリスマスはあの日、私の中の何かを変えたのかも知れない。一人きりのクリスマスは寂しいだけだ。そして、好きな人と過ごすクリスマスが暖かく、とても幸せなことだと気づかされた。
あの時、私にぶつかってきたサンタの格好をした男は、実は本当のサンタクロースじゃないかと私はたまに思うことがある。そして、その話をしたらあいつは隣で笑顔で笑ってハニカンだ――。
おわり
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