守護神の選択

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ボクはそのドジっ子の周りに居ついた。 感謝されたい。だから助けた。何度でも。 役に立ちたい。だからこれまでにないほど勉強した。やたらに本も読んだ。身体も鍛えまくった。この子のどんな希望にも対応したいと思ったから。 そうしてピンチを次々救った。その度沸き起こる濾過されたような爽やかな気持ち。それがあればすぐにでも成仏できると確信した。 でも。こいつはボクと同じだったんだ。 こっちが助けてやるとわかると、それを当てにする。頼る。それが当たり前と勘違いする。もっと良い結果をと不満を垂れるようになる。礼の言葉や態度など忘却の彼方――そんな風に変わっていった。 こっちは重労働、泥だらけ、へとへとになって助けてやってるのに。 濾過なんてとんでもない。純粋な清々しい気持ちなど湧かなくなった。やりがいもなく、苦々しく虚ろな気分になるばかり。 そうだ、金だ。この理不尽感は金をふんだくって埋めよう。 「お次は100万円で承ります」 ボクの反撃に驚き反発すれども、こいつはボクがいなけりゃ困る。……渋々払ってきた。 カモだな。 そしてボクは更に思いつく。 こんなにボクに寄りかかりやがって、人の苦労も知らないで。こいつの人生、ボクにかかってる。なら、もらってしまってもいいんじゃ? この辺りでもう一つ理解した。 ああ、そういう仕組み。 今の実体のないボクは、姿形なんかいくらだって変形できる。今じゃこいつそっくりに化けている。「守護神」と間違われるくらいお茶の子。 どこかでこいつは――そして過去のボクは間違えた。欲張った。最初の本気の感謝を忘れなければ。いや、その後だって同じようにちゃんと「ありがとう」と言っておけば。それもなしで何でもかんでも望むなんて。 ならば。 いやでも。マジで悪徳商法じゃん。頼ってくるやつを手なづけて金を巻き上げて、最後はその存在に取って代わる、なんて。 ボクにはそんなこと。 そんな風に。わずかに残っていた。いわゆる良心というやつが。 いやいやもういいんだ、人助けなんだから見返りなど求めずに消えよう、と小さなブレーキをかける程度には。こんな不毛なことを繰り返すより、あの清々しさを抱えてさっさと冥土へ旅立とう。 最後に、とボクはこのドジっ子の寝顔を振り返った。それが、成仏前夜――になるはずだった。 起きた。 「でさ、守護神さん。もう一つだけ、お願い! とびきり上手くやってよ!」 ――バカなやつ。 (完)
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