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父は、その花を見つけたんだと言う。
何色だったの、それでどうしたの? 子守唄のように聞かされたその話の結末は、何度聞いてもハッキリ教えてもらえなかった。父の母……あたしにとっての祖母が描いたという風景画を差し出されただけだ。
赤い花も白い花もたくさん咲いている絵だった。
その頃、父が何を迷って花を探したのかは知らない。
あたしの知っている父は、村の杜氏で新しい地酒を作った人。それが成功してブランド酒としての知名度が全国区となり、村が潤ったということは、住人なら誰でも知っている。その際、とある大財閥の重役だった知り合いを、愛人ネタで脅して支援させたとか何とか……そんな噂も耳にした。
そのくらいエネルギッシュで、たぶんいろんなことを跳ね返してきた強い人なのだと思う。そんな人を導いた花……。
それならばと、あたしもその花を探しに父の住んでいた田舎へ来ていた。裏山のどこかに咲いているはず。運が良ければ見つけられる。
あたしはパンダとの結婚に「進む」べきなのか。それとも白紙に「戻る」べきなのか――。
探した。探した。探した。
でもそれらしきものは、なかった。こんな季節、咲いている花は、一つも。
その日、あたしはその花を見つけることができなかった。
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