照平(しょうへい)の場合

1/2

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

照平(しょうへい)の場合

なおみちゃん。しぶこ。ワンチーム。今や日本には世界的なアスリートが頻出している。 オレだってそんな夢を見たことがあった。いやまだ28歳、その夢を捨てたわけじゃない。 だけど、ここ数年守備固めばかりだ。たまにスタメン出場したかと思えば、チャンスに打てない。だからすぐにベンチウォーマーに逆戻り。 独立リーグでこの調子。NPBから指名がかかるのを待つのは、もうあきらめた方がいいのだろうか。 けれど中学時代からもう15年、毎日毎日ずっとトレーニングを続けてきた。一日何時間もバットを振った。一つのゴロをさばくために、何百球ものノックをこなす日々を過ごした。 NPBを目指すと決めた、いや、そのずっと前の、ジュニア野球を始めた頃からの長い時間と膨大な努力。今ここで野球をやめるというのは、それを全部無駄にするということだ。 「努力すれば叶う」――上り詰めたアスリートたちはよくそう言う。 本当にそうなのか? 努力はしている。当然だ。そういうことを目指す者なら当たり前だ。その中でも他の誰より頑張っているとオレは胸を張って言える。 それでも。 打率。ホームラン数。盗塁数。守備力。出場機会。年下の選手に、軽く飛び越えていかれることが増えてきた。 28歳。まだ頑張れる――? 今ならまだ、普通に就職を考えて、何かつぶしのきく技術なんかを身につけて一生食っていける仕事に就ける可能性はあるんじゃないか。 これまでの努力を無駄にしないために未来の他の可能性を捨てるのか。これからを踏み出すために今までの努力を全て棒に振るのか――。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加