照平(しょうへい)の場合

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母から繰り返し聞いていた話がある。 これ以上ないと思えた上玉と結婚にまで話が進んだ時のことだった。が、母が自分で粉かけた男なのに、いざとなるとどうしても踏み切れず、迷ってしまった。そして「迷いの花」を探しに行ったとか。 「迷いの花」。母が父親――オレにとっての祖父から聞かされた、「進め」か「戻れ」かを教えてくれる花だという。 結局母は見つけられなかった。それが悔しかったのか、はたまたそれがきっかけだったのか、母はその後植物学者になった。一念発起、28歳――今のオレと同い年だ――で大学受験に臨んだという。そして、やっぱり植物学者の父と出会い、結婚した。 母はその花を見つけられなかったけど、探したことが決めるきっかけになったのだろうな。「戻れ」の。 その花を見たい――母の見つけられなかった花は本当に答えをくれるのかどうか。まだ夢を追い続けることへ「戻る」のか、それとも心機一転別の道へ「進む」のか。 どこに咲いているのか詳しい場所はわからない。ただ母方の親戚の田舎の裏山のどこか、なはず。 行くか戻るか。 明日。明日、探しに行こう。 そう決めたのは、その年のリーグ最終試合を終えた日の夜のことだった。
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