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その後
燈吉
僕は見つけた。その花は、白かった。
――「戻れ」、か。
僕はその花の横に座った。しばらくじっとその花を見つめ続けた。
そうか、「戻れ」か……。
母ちゃんの寂しい気持ちを晴らしてやれないけど。村の大人たちの受け身な感じがもんやりとするけれど。今のまま、できることをやって暮らしていけばいい。そうなんだ。それが正しいんだ。
――なんてこと、僕には不服だ。
僕は立ち上がり、その花に背を向けた。花が「進め」の赤であることを、前夜から願い続けていた。そう気づいた。
だから、進む。僕の中では赤なんだ。だから僕は進む。
でも……もし見つけたのが赤い花だったら。僕は「戻る」ことにしたかもしれない。そう、このとき初めて、僕は自分が天邪鬼なんだと知った。
明子
押入れから引っ張り出したお祖母ちゃんの絵には、赤の花も白の花もたくさん描かれていた。
赤プリの待ち合わせは明日、という夜。あたしは、この絵で決めようと思った。赤と白、さあどっちの花が多いか。数えてみた。
同じだった。
何? わざと? 意地悪クソばばあだな。
わかったわよ、やっぱりちゃんと現地へ行けばいいんでしょ。
そうして出かけたけど見つからなかった。まったく、あたしってまごうかたなき方向音痴。山の中でも迷子。人生でも迷子。
――ううん。
出かけたのは朝。探すのをやめたのは夕方。赤プリの待ち合わせ時間には間に合わない。
あたしは昨日の夜にはもう決めていたのだと、そのとき悟った。
照平
オレは行かない。探しになんか行かない。
朝になって、スッキリとそう思えた。
花? そんなものに頼るなら、ここまで地味な努力など続けてこなかった。
悔いのないように――そうアドバイスしてくる奴らが大勢いた。
でも、野球を続けても。やめても。
どっちにしてもきっと何かしらの後悔が残る。選択とはそういうものだ。
オレは、今日もまたいつもの素振りを始めた。
腕が折れるまで続けてやる。その先はそのときまた考える。
自分の人生、オレが決める――
なんてカッコつけても、結局きのう見た夢のせいなんだな。
――白い花が咲いているといいな、と思いながらさまよう夢だった。
(完)
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