何者

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何者

「……どうした? 大丈夫か?」  急に頭を寄せてきたロイに戸惑う。俺はまあまあいい感じに酔いが回ってるのも否めないが、ロイも酒に酔ったのか甘えたように俺の肩に頭を乗せ黙っている。正直ロイのこんな姿を見るのは初めてのことで、どう接するのが正解なのかわからなかった。 「酔っちゃった? お前もこんなふうになるんだな」 「うん……おかしい?」 「へ? おかしくはないよ。なんか意外だなって思っただけ」  しんどいのか口数が少なくなってしまったロイは、そのまま俺に寄りかかって動かない。生前、酒を飲まなかったヒナトと違い、ロイは俺に付き合い毎日食事の時は一緒に缶ビールを開けていた。ヒナトの記憶、感情を持っているロイだけど、酒を飲めないという体質的なものは別なのだろうか。ロイのことだから、飲めないのに無理して今まで飲んでいたとは考えにくい。 「……じゃ……ない」 「ん? なに?」  俯き何かをぶつぶつと言っているのに気がつき耳を寄せた。 「……酔ってるわけじゃない」 「はいはい、酔っ払いはみんなそう言うんだよ」 「酔ってない。俺は飲めるんだ……」  いつもしっかりしているロイが、俺に甘えるように体を預けてだらしなくなっているのが新鮮でちょっと嬉しい。それでもこれ以上はもう飲ませられないと判断し、俺たちは店を出た──  仕事終わりとはいえそれほど遅い時間でもなかったし、長い時間飲んでいたわけでもなかったからまだ街中には人が多い。ふらつきおぼつかない足取りのロイの手を取り、俺はゆっくりと足をすすめた。男二人で手を繋ぎ歩いている様子はどんなふうに周りから見えるのだろう。普段ならそんなことを考えてしまいそうだけど、今日ばかりは酒の影響かなにも思うことはなかった。 「俺は嬉しい。俺は楽しい。俺は……俺は悲しい」  そう言いながらロイは俺の手をぎゅっと握り、そのまま立ち止まる。 「ロイ?」 「…………」  見るとロイは立ったまま目を閉じ、寝てしまったように見えた。 「おい? まじか? 寝てんの? 嘘でしょ……」 「寝てない。起きてる。ちょっと眠くなっただけ」 「なにそれ怖っ。寝ちゃう前に帰ろうな。ほら歩け歩け」  なんとか支えながら家まで辿り着き、寝てないと言い張るロイをそのまま部屋まで連れていく。そして部屋に入るやいなやロイはベッドに転がるようにダイブし、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。 「──おやすみ、ロイ」  俺は一人リビングに戻るとソファに座り考える。  ロイとの新しい生活にもすっかり慣れ、俺にとってロイはなくてはならない存在になっていた。初めの出会いを思い返し、改めてロイは何者なのだと頭を過ぎる。寝食を共にし、俺以上に喜怒哀楽を表に出す。今日に至っては酒に酔い俺に体を預けていた。酔い潰れベッドで眠っている姿はどこからどう見ても同じ人間だった。初めこそロイの中に「ヒナト」を見、感じていた俺だけど、全然違う。ロイという「個」を今ではちゃんと認識していた。 「俺は……悲しい、か──」  静かな部屋の空気がやけに冷たく感じてしまう。  先ほどロイが呟いた言葉が胸の奥にちくりと引っかかったままだった。
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