「N-3198」改め「ロイ」

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「N-3198」改め「ロイ」

 些細な変化にヒナトの面影を見て、嘘みたいな現実に思わず顔が上気する。 「……ヒナト」  つい溢してしまったヒナトの名。そんな俺を憐れむような何とも言えない表情でじっと見つめた。 「俺はN-3198です。メモリーを起動させたから、これからは好きに呼んでください。なんなら見た目もヒナト様に変えますか?」 「え? そんなこともできんの?」  俺が驚いている間にロイドの顔の前に靄がかかり、一瞬だけヒナトの顔が現れた。突然のことに驚いて言葉を失っていると、これは俺にしか見えない3Dホログラムのようなものだと仕組みを教えてくれた。 「あぁ、でも……顔は、いいや。お前のままで大丈夫」 「そうですか? わかりました」  今でもヒナトに会いたい、触れたい、声が聞きたい、と胸が苦しくなるほど恋しいと言うのに、仕草や顔までヒナトそのものだったらきっと俺は現実を見られなくなってしまうだろう。ただでさえ前に進むことができずにいるのに、この先の人生を思ったら怖くなってしまった。既にこの世に存在しないヒナトの名を呼ぶのだって僅かに抵抗がある。    それは未だヒナトを求めているのになんだかおかしな話だとも思うけど…… 「好きに呼んでくれって、名前、無いの? そのエヌ……なんとかって以外に」 「はい。そんなところです。あなたの好きな名前をつけて呼んでください」  俺が名を付け、俺の言う通りに行動すると言う。  断ったら元の場所に帰るだけ、と言っていたからには、契約をしてしまった俺はこれからこの目の前の男と一緒に過ごさなくてはならないことになる。今更突き返すわけにもいかないし、まあしょうがないな、ともう一度契約書に目を通した。 「名前……んーと、ロイドだからロイ、でいい? あと、敬語じゃなくていい。その、友達? みたいな感覚で接してくれていいから」 「そ? わかった。ロイ、ね。良い名だ。でもなんか単純だな。ユースケらしいや」 「マジか。唐突に変わるんだな……ちょっとびっくりだわ」 「だってそうしろってユースケが言ったんじゃん」 「いや、そうだけど。まあいいや」 「ははっ、よろしくな。ユースケ」  俺の希望通りに態度を一変し、ロイはヒナトに似た愛嬌のある笑顔を見せた。姿形は全くの別人なのに、表情や仕草、喋り方までもがヒナトととても似ていた。  こうして不思議な縁で「ロイ」との共同生活が始まった。  ヒナトを亡くしてから五年、人との交流もほとんど絶っていた俺は久しぶりに感じる人の温もりに少しだけホッとしていた。  まあ正確には「人」ではなく「アンドロイド」なのだけど──
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