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黒よりも黒い世界。
光の届かないこの世界では、死神と呼ばれる者が存在していた。
棒状の骨と頭蓋骨で構成され、人の形をしたそれは、細い骨と骨の間に紙を挟み、目がないにもかかわらず頭蓋骨に近づけていた。
俺達は暗闇の世界で生きているため、真っ暗な闇の中でも輪郭が見える。
「この報告書見てよ~、283番ちゃん」
283番、それは俺の事だ。
この世界では名前は番号で、目の前にいる骨は1番の死神の長だ。
俺はリーダーの持つ紙を骨と骨の間に挟み、すっと取りあげ顔に近づける。
そこには、自分が殺したことを報告することが書いてあった。
しかも理由に関しては事細かく書いており、殺すか殺さないかの永い葛藤が書き綴られていた。
「最近の若い者と来たら参ったよ、長いったらありゃしない。こんな報告書読む気失せちゃうよ」
リーダーは、二本の骨をVの字にさせて頭蓋骨の口元部分に置く素振りを見せる。
どうやら人間界にある煙草を吸う振りのようだ。
「すぱぁ……、報告書って言うのは最低限の必要な事でいいんだよ、こんな葛藤誰が読むんだよ。 しかも理由が『あばら骨を下水道に落としてしまって、殺した後か殺す前に探すかで悩んでいた』って、そんなのどっちでもいいし、わざわざ報告するなよなぁ」
音楽を聴いてるのか、頭蓋骨を前後に揺らしながら体も連動して揺れだす。
「とりあえず、俺はなぜ呼ばれた」
すると、頭蓋骨の口元は横に伸び、眼球が入る部分は緩むように形を崩した。
「いいねぇ283番ちゃん、仕事熱心だねぇ」
手の様に構成された骨は左右にくつろぐように広げ、歓迎してるようなしぐさを見せる。
「今回は、アリアっていう世界で転移者の掃討ね。 またあっちの神が転移者送りすぎて均衡が崩れたらしい」
<あっちの神>というのは、転生を司る神だ。
人間は死ねば同じ世界で何かしらの動物として転生をする、ただ時々世界が神の力によってパワーバランスが崩れると、死んだ人間を転生させる代わりに、そのままの記憶と状態を維持したまま別の世界に送り込んでいる。
その際には、神側から特別な力を渡し、そして世界には存在しなかった異質な存在を排除させるのだ。
ただ、大体の原因はどこぞの神の『遊び』だ。
国を何個も滅ぼす竜を創り上げて送り込んだり、反秩序の悪魔を作り出して送り込んだりなど、そういった神による異質な存在によって世界のバランスが崩れる。
今回はその送り込んだ者たちが、排除した後に異質な存在となってしまったので俺達死神が掃除をするというわけだ。
なぜ異質な存在を俺達死神が片付けないのか? そう思った奴もいるだろう。
そもそも死神のできる事は、人間の生き死に関する事しかできないからだ。
だから、何でもかんでも掃除できるわけではない。竜も倒せない。
「じゃ、これ殺すリストね」
リーダーの手のような骨の上に青い炎が現れて、やがて消えるとそこには赤い紙が現れた。
それを丸く筒状にして、俺のあばら骨の間に挟み込む。
「では行ってくる」
俺は中身を確認せずにそのまま立ち去ろうとした。
リーダーの目の前で粗相を犯せばすぐに切り捨てられてしまう、その恐怖から逃げたかったのだ。
足元には紫色の円形、真ん中には六芒星が描かれている。
やがて俺の体は、その魔法陣に沈んでいく。
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