桜の木と銀色

1/1
前へ
/1ページ
次へ
カッターの刃ってキレイだなって思った。別に自傷行為をする程病んではいないのだが、ただ何となく鋭利なその銀色が好きになった、だからカチカチと伸ばしてみる。 カチカチカチ、ふと外を見ると、ああもう桜の季節か、なんて。 春眠アカツキを覚えず、道理で最近眠い訳だ。 やる気のなさをノートにのこして、とりあえず出した分だけの長さを0に戻す。カチカチカチ。 放課後、気だるい生暖かさと嫌に強い風に包まれながら、古めかしい太い桜の木の前に立ってみた。 カチカチ、銀色が日光を鈍く反射させる。先端のナナメをふと食い込ませたくなって、取り敢えず腰の高さに短くシルシをつけてみた。 面白い、次は目の高さ。少し長めに、ああ来年はここから新芽が葺くのだろうか。 その頃まで僕は、この木と刃物との出会いを覚えているのだろうか。 白い地肌にめりめりと、ただひたすらに傷を残してみた。 来年には、傷のついた幹から新芽が生えるのだろう。 日々に傷ついた僕は来年も笑っていられるかわからないのに。 なんて皮肉なんだ。 僕はこうして動けないものに傷をつけることでしか、生きているシルシを残せないのに。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加