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カッターの刃ってキレイだなって思った。別に自傷行為をする程病んではいないのだが、ただ何となく鋭利なその銀色が好きになった、だからカチカチと伸ばしてみる。
カチカチカチ、ふと外を見ると、ああもう桜の季節か、なんて。
春眠アカツキを覚えず、道理で最近眠い訳だ。
やる気のなさをノートにのこして、とりあえず出した分だけの長さを0に戻す。カチカチカチ。
放課後、気だるい生暖かさと嫌に強い風に包まれながら、古めかしい太い桜の木の前に立ってみた。
カチカチ、銀色が日光を鈍く反射させる。先端のナナメをふと食い込ませたくなって、取り敢えず腰の高さに短くシルシをつけてみた。
面白い、次は目の高さ。少し長めに、ああ来年はここから新芽が葺くのだろうか。
その頃まで僕は、この木と刃物との出会いを覚えているのだろうか。
白い地肌にめりめりと、ただひたすらに傷を残してみた。
来年には、傷のついた幹から新芽が生えるのだろう。
日々に傷ついた僕は来年も笑っていられるかわからないのに。
なんて皮肉なんだ。
僕はこうして動けないものに傷をつけることでしか、生きているシルシを残せないのに。
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