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プロローグ
気怠い土曜日の午後。
何もする気が起きなくて、私はぼんやりと6階の窓から正面の公園を見ていた。
駅の方から、大きな銀色のスーツケースを転がしながらこちらに向かって歩いてくる男性が見えた。
「あ、あの人かも」
なんとなく予感があった。
紺のスーツはまだ新しくてパリッとしてるのに、中身はなんだかくたびれた様子。
『背中を丸めてトボトボ歩く』ってああいう歩き方のことを言うんだろうなぁってふと思う。
「お父ちゃーん、新規の入居者さん来たかも!」
声をかけると奥から何やらゴソゴソと動き出す音が聞こえた。
「あぁ……今日だったか? チッ、めんどくせぇな」
「何言ってんの! こんなボロマンションに入ってくれるだけありがたいんだから。ちゃんと仕事してきてよ!」
私は、お父ちゃんのお尻を叩いて鍵を握らせる。
「ほら、これ。505号室の鍵! もう、入居説明資料はどこにやったのよ?」
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