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カラー印刷したポスターを持って、ふたりで休憩時間に駐車場に行った。警備事務所は立体駐車場の横にある。昼食をとった後なのか、青空の下、警備員の制服を着た何人かが、帽子を脱いでタバコを吸ったり、座り込みながら缶コーヒーを片手に持っていたりと、休憩スタイルで輪になっていた。
「どの人?」
「あの中にはいませんね」
「まだ休憩に入ってないんじゃないの」
「そうですかね、じゃあ、駐車場の方へ……」
「……誰を探してますか?」
青さを含む低い声。
ゆっくり振り返って、5秒。
健康的な陽に焼けた青年が立っていた。
愛想よく笑い、帽子を脱いだ後、くったりとした髪をすこしだけ荒く触れ、逆立てる。短い髪がシュッと上がり、意志の強そうな眉と丸いアーモンドアイが向けられた。
学生っぽい爽やかさと会社擦れしていない感じが可愛い。何かスポーツでもしていそうな、からりとした子だ。
さよちゃんが言っていたことはオーバーではなく、好感度はかなり高い。年齢問わずにモテそう。名札を見ると、永峰史人と書かれている。思わず、ごくりと喉を鳴らしそうになり、我慢する。ここは職場だ。そして私は地味なオバサン。恋センサーは死滅したはずだが、違う食指がぬるりと自分の中で動いたことを自覚する。振り切るように、すぐさま首を振った。
「……えっと、その、あー」
さよちゃんが必死な視線をよこす。
「……私たち、モール内でオフィス業務を行なっているものです。懇親会のことって聞いてます?」
持って来たポスターを見せながら言うと、ああ、と覗き込まれた。
大きい手がポスターを受け取り、手の甲に何かついているように見えた。なんだろう。じっと見ているとそれは太陽の光できらきらと光る。
化粧のラメに近いものなのか、細かい粒だった。
「山岸さーん、これ知ってますか?」
ひらりと紙を持ち、警備員の輪に言うと、中のひとりが振り返った。
不精ひげをはやし、服が暑いのか、胸元のチャックを下ろし肌着が見えている。下腹部はだらしなくたぷんとしている。
タバコを咥えたまま、彼は、
「ふみー、何のことだ」
と、近づいてくる。
「これ、お借りしてもいいっすか?」
ニコッと愛想よく笑うと左頬だけ笑窪ができた。
「は、はいっ、大丈夫ですっ、もちろんですっ、どうぞどうぞ」
さよちゃんは何度も頷き、道を譲るように腕を振った。
「あ、すんません、じゃー、借ります」
「……そのポスターに参加者はテナントごとに参加人数を取りまとめて、モール担当者へって書いてますけど、警備事務所の方で参加される人はオフィス事務所へ連絡をください」
「あー……、わかりました。って、えーっと、誰に……」
「オフィス事務の山本までお願いします」
緊張で顔が赤くなり、唇をギュッと噛んでいるさよちゃんの肩へ両手をのせる。
「それと、あなたの名前を聞いてもいい? 参加しないにしても、ポスターをテナントに渡したから、確認の電話をこっちからするかも」
「あ、はい。俺は永峰史人です。って、俺の名前でいいのかな。最近、バイトで入ったばっかりで、まだ大学生っす。こーゆーのって社員さんとかがいいんですよね、あ、山岸さんーーー」
「永峰くん」
「はい」
「教えてくれてありがとう。よろしくお願いします」
さよちゃんと一緒に軽く頭を下げる。
「こちらこそっす。……バイトも参加していーんすか?」
永峰くんが迷いながら発した言葉は、さよちゃんに向けられていた。無言のまま何度も頷くさよちゃんに、返事、と小さく囁く。
「う、うんっ! 大歓迎だよっ、私もバイトだから、歳の近い人が居れば嬉しい。良かったら参加してくださいっ」
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