stance.1

2/5
79人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
*  大型アウトレットモールの朝は遅い。平日の通勤、通学ラッシュを過ぎた電車を降りると人波はだいぶ引いていて、大通りを流れる私服出勤の波に乗る。たどり着くところは、地方のテーマパークと化している、アウトレットモール倉橋(くらはし)だ。  二階建てで、ドーナツのようにぐるりと通路があり、外堀(そとぼり)の店と内陸(ないりく)の店がテナントごとに扉を持っている。店から出ないと次の店に入れないのはデメリットであるが、各店々のコンセプトが歩きながら楽しめるため、ウインドウショッピングにはうってつけだ。入っているテナント数は100軒ほど。種類も豊富でメンズ、レディース、キッズの衣料品やスポーツアウトドア店、アクセサリーや時計屋、レストラン街など、休日を買い物の1日にあてるにはちょうどいい。  都心部から流れてきたブランドのアウトレット商品は、腐ってもブランド物なので、実用性に問題はない。知っている人が見れば、型落ちということは分かるけれども、地方の生活はよっぽどのブランド志向でなければ、他人が持っているものを品定めする人の方が珍しい。  大通りを道なりに進むと、15分程度で敷地に入った。人波ははじけ、各々のテナントに入っていく。私はそのまま一階にある「Resting room」と表示された部屋に向かう。  開けたワンフロアに机と椅子が行儀良く並び、奥にドリンクバーが見える。室内のモカブラウンのなごむ色は、冷えゆく季節に温かみを与える。各テナント裏には休憩室が準備されているが、ここはテナント関係なく使用できるモールスタッフ専用の食堂を兼ねた休憩室だ。  先に出勤していた1階のコンサバテイストの洋服屋に勤める人達が私をちらりと見た。名前は知らないが、外見から察するに20代後半で、店のテイストに合わせた働く大人女子の洋服を着ている。彼女たちにとってそれは制服に近いもの。  アパレルショップのスタッフは、店の服を身につけることが暗黙のルールとなっている。隣に居たスーツのようなモノトーンの服を着た女性は上司だろうか。年齢が彼女よりやや上だが、私よりはたぶん下だ。ふたりは私を一瞥すると肘で突き合った。 「バックヤードの三浦さん、今日もモールの制服ですね」 「え? 通った?」 「通りましたよ! あ、こっち見て―――」 「彼女の仕事はオフィス業務。バックヤードじゃないよ」 「えっー!? あたしずっとバックヤードの人だと思ってました。だって、モールの制服なのに、彼女だけダサ過ぎて浮いてる……―――」 「あ、やめっ」  丸聞こえでっせ。  でも、まぁ、そう思わせている分、しめしめと小悪党のように笑いを我慢する。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!